具体化する欧州ティルトローター構想

 

 欧米の新しいティルトローター開発構想については先の本頁に掲載したばかりだが、そろそろ欧州側の計画が具体化しそうな気配である。その状況について、ユーロコプター社の広報誌『ROTOR』(2000年5月号)が詳しく書いている。

 それによると、欧州のヘリコプター・メーカー3社(ユーロコプター、アグスタ、ウェストランド)は今年3月、ティルトローターに関する共同研究計画をブリュッセルの欧州委員会に提出した。この計画は2000〜2004年の間に研究作業を進め、2005年に実証機を初飛行させる。その後、本格的な開発作業を進めて、2010年〜2030年の間に生産をするという計画。

 これにより2010年からは、欧州勢も先行する米国勢に対抗してティルトローター機の生産が可能になる。しかも製品としては第2世代のティルトローターになる。ちなみに欧州側のいう第1世代のティルトローターとはアメリカのV−22オスプレイやBA609を指す。

 この計画について欧州委員会の結論が出るのは、今年夏の予定。ゴーの決定が出れば、メーカー3社は欧州委員会と契約を結び、年末から研究作業に着手する。

 欧州では1990年代初め、ヘリコプター・メーカー各社が「ユーロファー」と呼ぶティルトローターの共同研究をした。いずれは実証機をつくる予定だったが、アグスタ社が戦列を離れてベル社と一緒にBA609の共同開発に向かったため、ユーロファーに関する3社の協定は破綻したものとみなされた。

 そこでユーロコプター社は新しい「ユーロティルト」計画を欧州委員会に提出し、アグスタとウェストランドの両社は「エーリカ」計画を出した。しかし欧州委員会としては、これら二つの計画に別々に研究資金を出すわけにはいかない。というので、1999年末3社に対し共同計画の形で一つにまとめるよう要請した。その結果が、この3月の計画となったのである。

 計画が認められれば、メーカー3社はユーロティルトとエーリカを基礎として第2世代のティルトローター機を開発する。ローター機構、エンジン、システム構造、操縦系統などの研究を進め、平行して仏、独、伊の研究センター――それぞれONERA、DLR、CIRAもエアロエラスティックの作動状態、ティルトローターへの応用の方法、空気力学、相互干渉、ローターの騒音など、さまざまな局面をとらえて研究を進める予定になっている。

 こうした研究には、総額9,500万ドルの資金が必要と見られる。さらに実証機の製作には追加2億5,000万ドルを要し、20席の中型機の開発には2010年までに10億ドルが必要という。

 欧州勢は、この実証機によるデモンストレーション飛行を進めると同時に、アメリカ側のBA609に対する航空界全般の反応を探りながら、ティルトローター機の市場性を見きわめ、態度を決めていく予定である。

 なおユーロコプター社は昨1999年ティルトローターの市場調査をおこなった。その結果は20席クラスの中型ティルトローター機について、2010年頃には需要が出てくるという結論になった。そして2020年までの10年間に、今のヘリコプターの役割ばかりでなく、旅客輸送にも使われるようになる。また2020〜2030年の間には、空港混雑解消のために30席、もしくはペイロード20トン以上で50〜70席といった大型ティルトローター機への需要も出るだろうというのである。

 こうしたVTOL機は、空港での発着に際して固定翼機のような滑走路を使う必要がない。したがって進入経路も異なるので、コミューター航空の旅客輸送を分担するならば、空港スロットの効率を大きく高めることができる。

 また将来は軍事面でも大型VTOL機が必要になるはずで、そうなると民間機としての開発費の負担もいくらか楽になるであろう。たとえば6〜7トンのペイロードをもつて特殊任務に使われるVTOL機の必要性はすでに出ている。同機は1,000〜1,500kmを高速巡航飛行が可能でなければならない。また完全武装兵員12人の搭載が可能なVTOL機も必要である。

 その先は今アメリカで論議されている3軍共同のティルトローター計画がある。現用CH-47やCH-53に代わって兵站輸送をおこなうもので、去る5月のAHSフォーラム56でも「フューチャー・トランスポート・ロータークラフト」(FTR)として、メーカー各社の構想が提示された。30トン級のVTOL機にしぼられ、2005年頃にも具体化する可能性がある。

 こうして、中・大型VTOL機の必要性は今後、軍・民両面で増大してくるであろう。ブリュッセルの欧州委員会も、メーカー側の要請に必ずや応えてくれるものと、ユーロコプター社は期待している。

 (西川渉、2000.6.20)

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