フグは当たるが

 

 

 4月15日午後7時のNHK総合テレビのニュースで気象庁の長期予報が当たらないという話題を伝えていた。同じようなニュースは10日ほど前にもあったと記憶しているが、今回の方が関係者のインタビューなどもまじえて詳しい内容になっている。

 その内容というのは、たとえば今年の冬は寒いという予報だったが、実際は例年なみか、むしろ暖かい冬であった。そのため肉まんの売上げが7%減って、寒さを見越して仕入れたまんじゅう屋さんが損をしたらしい。

 このように多くの企業が長期予報に頼って計画を立てていて、アンケート調査によれば、電力会社など3割の企業が長期予報を必要としている。しかるに予報が当たったのは過去10年間で4割くらいしかなかった。

 気象庁としては、そこで長期予報を出し放しにするのではなくて、1か月後に見直し、必要があれば予報を修正する。第2の方策としては向こう3年以内に大型コンピューターを増やして、予報の精度を上げるというのである。 

 たしかに最近は天気予報が当たらない。長期予報などは全く当てにならず、無駄な情報を流しているだけでしかない。それというのも、おそらくは機械に頼りすぎるのではないか。人工衛星やレーダーやコンピューターなど、装備ばかりが近代化した結果、予報官達は実際の空を見なくなったのではないか。雲の動きといっても、ブラウン管の上で見るだけで、みずから風に吹かれ、空の色の変化を観察し、雲の動きを見てはいないのではないか。

 むろん東京の大手町で、そんなことはできぬであろう。とすれば、気象庁が大手町にいる必要はないので、観天望気の可能な土地へ引っ越すべきであろう。今のままでは、いくら大型コンピューターを増設しても精度の上がるはずはない。地震予知と同様、税金の無駄遣いに終わるだけである。

  

 要するに費用効果を考えていないのである。高価なコンピューターを買い込んで、どこまで精度が上がるのか。逆に、莫大な費用を使ってちょっとばかり精度を上げ、当たる確率が4割から5割になったとして、それがどれほどの意味を持つのか。

 冬が例年にくらべて寒いか、暖かいか、平年なみかは3通りしかない。素人だって3割3分の確率で当てることができる。それが気象庁でも4割しか当たらないのだから、予報官などというものものしい呼称が聞いて呆れるというもの。

 無駄な重装備は是非ともやめて貰いたいが、このニュースをNHKがゴールデンアワーに繰り返し放送するのは何のためか。おそらく予算取りのための前宣伝に加担しているのにちがいない。

 

 この際、企業の方も気象庁の予報なんぞを当てにして長期計画を立てるなどという愚かなことはやめるべきであろう。経済活動のための気象情報は、有償で入手すべきである。

 最近は、そのためのお天気会社や民間の気象予報士などができたはずで、そこから情報を買えばいいのである。買った結果が当たらなければ、来年からは誰も買わないだろうから、そんな会社や予報士は消えて行くだけである。あるいは当たらない場合に備えて、売り手の方が保険をかけておき、それで肉まんの損害を弁償するといったことも考えられる。

 このように金銭を媒介にして考えれば、おのずから費用効果もはっきしりしてくる。4割しか当たらないような情報は、よほど安くなければ買い手がつかないだろうし、その精度を上げるためにはお天気会社としてどこまで高価なコンピューターを買い入れることができるか。ソロバンをはじいて計算することも可能であろう。

 私の知っているヘリコプター会社も、毎年かなりの費用をかけて気象会社との間に契約を結び、情報を買っている。航空と気象は切っても切れない関係にあるから当然のことではあるが、航空会社でなくても気象情報を必要とする企業は、おそらく多くのところが同じようなやりかたで有償の情報を入手しているにちがいない。

 とすれば、ますます気象庁が余計なことをする必要はなくなってくる。人を惑わすような情報を流すのはやめて、人工衛星やレーダーやラジオゾンデによる基礎データの収集と、せいぜい向こう1週間くらいの天気予報を出してもらえばいいのではないか。もっとも1週間くらいの天気予報も、余り当てにはならない。フグを食うときは「キショーチョー、キショーチョー、キショーチョー」と三度唱えればいいというのは昔の笑い話だが、今も当たらぬところは相変わらずで、税金の無駄を考えると笑ってばかりもいられない。

(小言航兵衛、1999.4.17)


(観天望気)

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