未来型輸送用ロータークラフト

 

 先日の本頁で、アメリカに対抗する欧州勢が第2世代のティルトローター開発に向かいつつあることを書いたが、それならばアメリカ勢としてはさらに先を行くというのが「FTRプロジェクト」であろう。

 この新しい戦術輸送機「フューチャー・トランスポート・ロータークラフト」(FTR)の開発については、米3軍向けにメーカー各社から提案が出ている。今年5月のAHSフォーラムでは、これについて集中的な検討がおこなわれ、大学の研究者やメーカーの技術者によるいくつかの提案がなされた。

 その中から、ここではメーカー2社による具体的な開発構想の一部を記録しておこう。

 

 まずFTRとは如何なるものか。ベル社は、各軍の要求仕様を次のように想定している。

 海兵隊はペイロード12〜15トン。C-130に匹敵する貨物室を持ち、V−22同様の速度と航続性能を有する。空軍も海兵隊同様の要求だが、航続距離はもっと長い方が望ましい。海軍はペイロード15トン、1,850kmの航続性能を持つVTOL機。そして陸軍はペイロード10〜20トン。速度範囲は320〜550km/hで、戦闘半径300〜1,000km、キャビン・サイズはC-130より大きいものになる。

 なお民間機としての要求は今のところないけれども、空港の混雑が今後ますます激化することを考えるならば、将来100席クラスのVTOL旅客機が必要となるだろう。

 これらの想定要件に対し、ベル社はさまざまな航空機を検討している。その中には大型シングル・ヘリコプター、タンデム・ヘリコプター、ティルトローターなどがあるが、最終案はQTRになるらしい。

 QTR(クォッド・ティルトローター)は1年前の昨年5月、AHSフォーラムで初めて模型が展示された。それを具体化しようというもので、先ずは現用V-22のローター機構やエンジン、その他のコンポネントをできるだけ流用して、胴体前後に2基ずつ、合わせて4つのローターを取りつける。加えて民間向けBA609で開発された新しいティルトローター技術も取りこむというもの。

 これが最も現実的な案で、V-44と名づけられ、ペイロード9トン、作戦行動半径416kmで、2005年までに設計を完了、2010年には実用化できるという。エンジン出力は1基6,150shpでV-22と変わらないが、これが4基になるから合計出力は2倍。ローター直径も11.6mと変わらないが、合わせて4基になる。総重量は41トンでV-22のほぼ2倍、燃料搭載量は5、670kgである。

 しかし、これでは軍の要求に対して、やや不十分なところがあるので、2018年までには、もう一回り大きなQTRを開発するというのがベル社の提案である。つまり2段階に分けて理想のFTRを完成させようというもので、エンジン、ローター、トランスミッションなどの動力系統に新しい技術を採り入れ、エンジン出力を7,400shp×4基に上げると共に、ローター直径も13.4mまで拡大し、総重量を57トンにするという。

 

 一方、ボーイング社のFTR構想は、現用CHー47チヌーク大型ヘリコプターに代わるティルトローター機で、常駐基地にいる軍隊を最前線へ送りこみ、96時間以内に戦闘態勢をととのえるための輸送手段となる。ペイロードは20トン。

 現在は、たとえば東欧や中東に紛争が生じた場合、そこへ軍隊を送りこむには、無論米軍の場合だが、兵員はアメリカ本土から大型戦略輸送機で作戦基地へ飛び、そこからC-17やC-130に乗り換えて前進基地の急ごしらえの飛行場へ飛ぶ。そしてさらにCHー47やUH-60といったヘリコプターや地上車両に乗って最前線へ向かうことになる。

 したがって最前線までの展開には長い時間と何回にも及ぶ乗り換えを要し、兵員の疲労も重なる。FTRはその時間を短縮し、乗り換え回数も減らすことができる。

 さらに前進基地と最前線を含む戦場は、ヘリコプターが移動手段であった1990年代には20km×30kmくらいの範囲に限られていたが、高速・長距離の飛行が可能なFTRが登場する2010年頃には100km×300kmの範囲に広がり、将来はさらに300km×900kmにまで拡大するであろう。

 すなわち標高1,200m、気温35℃の条件下で、CHー47Fがペイロード6トンを搭載して250km程度の航続性能であるのに対し、FTRはペイロード13トンで740kmを飛ぶことができる。この場合の上昇率は毎分150m、ティルトローターとしての速度は500km/hである。

 こうした航空機の構造は、機体重量が最新の複合材技術を多用してV−22前量産型にくらべて15%減となり、エンジンはT406にくらべて出力重量比が110%増、燃料消費率が35%減。またホバリング効率はRAH-66にくらべて3%よくなるという。敵に見つかりにくいステルス性もそなえている。

 このFTRティルトローター機は総重量が50トンを超えて51,710kg。ローター直径は18.3m,ローター回転面を含む左右のスパンが41.0m、全長26.0mになる。

 ローター・ブレードは複合材製で、アクチュエーターつきのスマート・タブが取りつけられ、ハイアー・ハーモニック・コントロールをおこなう。さらにブレードの中にも別のアクチュエーターがあって、ブレード先端を後方へ曲げる。これでブレードの平面形が変化し、効率を上げることができる。

  ベル、ボーイングの両構想とも、まだ机上もしくはコンピューターの中のアイディアに過ぎないが、これから現実に向かって急速に進展するであろう。

 (西川渉、2000.6.22)

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