救急ヘリコプター配備数の問題

 

 

 救急ヘリコプターの配備機数について考えている。いったい、どのくらいの機数が必要なのだろうか。常識的には47都道府県に1機ずつであろう。それに加えて、北海道のように広いところや、東京のように人口の多いところ、あるいは沖縄のように遠く離れた離島地域は複数機を配備するとすれば、50〜55機ということになる。

 平成元年3月に自治大臣宛に出された消防審議会の答申も、だいたいそのような考えであった。その考えに基づいて配備された結果が現在の消防・防災ヘリコプターで、全国に66機が存在する。けれども、これは救急専用機ではなく、多くの任務が課せられているため、救急という面から見ればアブハチ取らずになってしまって、不満足な活動しかできていない。

 そこで改めて救急専用機を配備するとして、外国の先進事例を見ると下表の通りとなる。

 

配備機数

面  積

(千平方キロ)

人  口

(百万人)

日本ならば何機相当か

面積割

人口割

アメリカ

520機

7,863

273

25機

242機

ド イ ツ

51機

357

82

54機

79機

ス イ ス

15機

41

138機

272機

フランス

28機

544

59

19機

60機

イギリス

11機

244

59

17機

23機

[注]日本は面積378千平方キロ、人口127百万人として計算。

 

 ドイツの救急ヘリコプターが体系的、模範的な配備形態をとっていることはよく知られている。日本がそれにならうとすれば、国土面積に比例させると54機になる。上述の防災ヘリコプターの考え方とほぼ一致する。

 スイスは国土がせまい。日本の1割強でしかないのに15機が配備されている。したがって日本の面積にすれば138機ものヘリコプターが救急待機をしていることになる。なに、あの国は山が多いからという人もある。救急車では行けないようなところが多い分だけヘリコプターが多いというのだが、日本だってスイスほどではないにしても、相当な山国である。山間僻地の医者の少ない地域、医療施設の乏しい地域も多いはずだ。

 一方ドイツは南部のアルプス山岳地帯を除いて、ほとんど全国的に平地が広がっている。高速アウトバーンが発達しているのもそのためで、救急車だって走りやすいだろう。それでもあれだけのヘリコプターが配備されているのだ.。山国日本はドイツ以上の密度で救急ヘリコプターを配備する必要があるのではないか。理想的な機数としては、ドイツとスイスの間くらい――すなわち80機から90機の配備である。

 さらに人口を基準にすると、もっと大変である。スイスの人口は716万人。日本は1億2,700万人だから18倍。したがって15機を掛けると272機になる。日本人一人ひとりにスイスなみの手厚い病院前救護体制をととのえるには、これだけの救急ヘリコプターが必要なのである。しかしヘリコプターは経費がかかるとか、自治体の予算がないなどという言い訳はおかしい。スイス人にくらべて日本人がそれほど貧しいとは思えない。これは費用の問題はなくて、人の命に関する考え方の違いではないのか。

 なお、上の表からフランスやイギリスを引き合いに出すとおかしくなる。これらの国は今、ヘリコプター救急体制の構築途上にあって、まだ完成していないからだ。したがって彼らも頭の中には理想の姿を描いているはずで、その理想に向かって努力がつづいている。

 日本も早いうちに理想の青写真だけは明確にしておく必要があろう。

(西川渉、2000.9.28)

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