【インターネット版】

ヘリコプターの歴史

その前史と誕生と発展と――(8)

 

タービン革命

 ガス・タービンがジェット・エンジンとして飛行機の世界に革命をもたらしたことはいうまでもないが、この法則はヘリコプターについても当てはまる。

 先にも述べたように、ヘリコプターの歴史がまだ実験段階にあった頃、所要の動力が得られないためにヘリコプターが実現できなかった。それと同じように、いよいよヘリコプターが発達してくると、再びひとつの限界が感じられるようになった。つまりピストン・エンジンではいかにも大きく、重すぎて、その割には出力が小さいのである。そこに登場したのがターボシャフトである。20世紀初めに出現したピストン・エンジンがヘリコプターそのものを実現させたように、タービン・エンジンは20世紀後半のヘリコプター界に大きな革命をもたらしたのであった。

 ヘリコプターに使われるターボシャフト・エンジンはターボプロップと共に、基本原理はターボジェットと変わりがない。しかもピストン・エンジンにくらべて重量に対する出力の比が大きい――軽くて力が強いという特徴を持っていた。

 もうひとつの利点は、ピストン・エンジンと違って、オクタン価の高いガソリンを必要とせず、値段の安いケロシンが燃料になること。

 第3に、ピストン・エンジンには冷却の問題がある。航空機用の空冷エンジンはもともと空気中を高速で移動することを前提に冷却機構が設計されているが、これをヘリコプターに使うと低速もしくはホバリング飛行が多いので、問題が起こる。

 第4は大きさ――とくに高出力のピストン・エンジンは図体ばかりが大きく、かさばってしまう。したがってスペースを取るから、取り付け位置が問題になる。

 そうしたことから、タービン・エンジンをヘリコプターにも利用しようという考え方はかねてから試みられていた。それを1950年代に入って実用的なものに完成したのが、フランスのエンジン・メーカー、チュルボメカ社であった。

 同社を1938年に創設したジョセフ・シドロフスキーは、第二次世界大戦が終わるとすぐにタービン・エンジンの開発に取りかかった。初の試作は140shpのオルドン、二番目は220shpのアルツ−ストで、1952年には400shpのアルツーストUに発展した。

 構造はきわめて単純で、遠心式コンプレッサー、2段タービン、アニュラー型燃焼室から成る。まだ原始的で燃料消費も多く、未開発の部分もあったが、重量はわずかに115kg――同じ400hpのピストン・エンジンからすればはるかに軽いものであった。

 やがて、このアルツーストはアメリカのベルXH-13FとシコルスキーXH-39(S-59)に装着され、飛行した。S-59は先にも述べたように、S-52をタービン化したもので、当時珍しい引込み脚を持ち、1954年6月1日に初飛行、同年8月26日には251km/hの世界速度記録をつくり、10月17日には高度7、474mに達した。これは当時のピストン機ではほとんど不可能な記録である。

 こうしたアメリカ機は、しかし、いずれも実験機である。本格的な実用機はフランスから現れた。それは1955年3月12日に初飛行したアル−エトUである。

 この5人乗りの小型タービン機は、まことに画期的な飛行性能を持ち、テスト飛行を始めたとたん、6月に高度8,209m、7月には10,911mという記録をつくった。フランスの民間証明が交付されたのは1957年5月2日。58年1月14日にはFAAからもアメリカ初の民間タービン・ヘリコプターの型式証明を受けている。

 それが日本に輸入されたのは1961(昭和36)年。小柄なヘリコプターながら、デモ飛行ではタービン・エンジン特有の轟音を発し、軽快に飛びまわるさまは初めて見る人びとを圧倒した。そのめまぐるしさの余り、翌日の新聞には筆が滑って「宙返りをして見せた」と書いたところもあったほどである。

 ターボシャフトはやがてアメリカでもすぐれたものが開発され、ライカミングT53やGE T58が出現する。T53はベルUH-1シリーズに採用され、T58もシコルスキーS-61やバートル107のエンジンとして今も使われている。

 これらのエンジンなくしては今日のヘリコプターもなく、ターボシャフトこそはヘリコプターの歴史の上で最も重要な発明であった。。(つづく) 

(西川渉、『航空情報』別冊「ヘリコプターのすべて」1979年刊に掲載)

 

【関連サイト】

 上の本文に出てくるベルXH-13Fターボシャフト実験機は「ベル47の歴史」というサイトに掲載された詳細な年表で見ると、1954年10月20日に初飛行している。したがって1954年夏から55年春にかけて、シコルスキー、ベル、シュド(後のアエロスパシアル社、現ユーロコプター社)というヘリコプター主要3社がいっせいにタービン・ヘリコプターを飛ばし、タービン化へ向かったことになる。このように短期間で大きな変化の起こることを革命といい、上の現象を「タービン革命」と呼ぶゆえんである。

 なおベルXH-13Fは、H-13DのフランクリンO-335-5ピストン・エンジン(200hp)をチュルボメカ・アルツースト・ターボシャフト(280shp)に換装したもので、これにより飛行性能は大きく伸びたと思われるが、数値はよく分からない。(99.7.7) 

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