ヘリコプターIFRの具体化

 去る2月21日から23日まで、テキサス州ダラスで国際ヘリコプター協会(HAI)の年次大会が開催された。私は残念ながら行けなかったけれども、大会のもようは次々とインターネット上で報じられた。

 その中で、私の目を惹いたのはGPSを使ったヘリコプターIFRの問題である。これは2月20日、HAI大会の前日、会場に近いアナトール・ホテルでおこなわれたジェーン・ガーベイFAA長官(女性)とヘリコプター人たちとの円卓会議に出てきた話題である。

 その中で、ヘリコプター人の方から「ヘリコプターもIFRシステムという安全な傘の下で飛行をしたい。けれどもヘリコプターIFRに関するルールづくりはなかなか進まないではないか」というような意見が出たらしい。それに対してガーベイ長官は「作業は進んでいる。この春までには何らかの形が出るでしょう」と答えた。

 この答えよりも、最初の意見の方に、私は賛同したい。ヘリコプターの安全を高めるためには計器飛行システムの構築が必要である。しかし今のシステムがヘリコプターに適さないのはいうまでもないことで、新たなシステムづくりが早急に着手されなければならない。そこのところを放っておいて、ヘリコプターは運航の安全に気をつけろといったお説教をいくら繰り返しても無駄であろう。

 事実FAAは、昨年夏HAIやAHS(アメリカン・ヘリコプター協会)などの業界団体から出された建白書に対し、庁内に「垂直飛行委員会」を設けて横断的な意見をまとめている。ロータークラフト専用の空域管制システムをつくるためにはどのような手段があるか、そのための施設は何かについて検討を進めているというのがガーベイ長官の答えであった。特にニューヨークを含む米国北東部の「混雑した空域でロータークラフトが安全に飛ぶための条件」を検討しているとのことである。

 日本の空域はアメリカ以上に混雑しているといった話をよく聞くが、それならばアメリカ以上に検討を深める必要があるのではないか。

 そのうえ彼らは検討や議論をしているだけではない。GPSによるヘリコプターの計器進入を着実に実行に移しているのに驚かされる。

 ガーベイ長官によれば「GPSを使ったヘリコプターの非精密進入は、すでに90か所以上の病院で救急搬送のために実用化されています。同じようにメキシコ湾でも石油開発のためのヘリコプターがGPSを航法に使い、視界不良の場合でもプラットフォームへ向かってGPS進入をしています」というのである。シコルスキーS-76を飛ばしているヒルクレスト・ヘルスケアも担当地域の病院ヘリポート19か所にGPS進入システムを設けている。

 さらに病院以外のヘリポートも合わせると、GPSによる非精密進入が認められたところは、この3年半で100か所を超えた。その中にはモービル石油、ジェネラル・エレクトリック、シコルスキー社など社用ヘリコプターのためのGPS進入システムを設けているところもある。またメリーランド州警察も専用ヘリポートにGPS施設を設けている。

 こうした積み重ねが次の本格的な計器飛行と精密進入を実現させるのであろう。

 そこでガーベイ長官は言う。FAAの飛行管制は最終的に「“フリーフライト”をめざしています。そのための準備の一つとして、最近ゴア副大統領が4億ドルをかけてGPSを近代化すると共に、新しい民間向けの周波数2波をつけ加えるという方針を明らかにしました」

「加えてジョンズ・ホプキンス大学が最近の調査研究の結果、GPSはFAAの管制および航空機の航法のための唯一の手段になり得るという結論を出したことに力づけられました」と。

 つまりGPSは他の航法装置の補助手段ではないし、他の航法装置のバックアップがなければ使えないといったものでもない。これらの議論を通じて、私はアメリカが国を挙げて、航空の安全と効率化に取り組んでいる様子が見えるような気がした。

 (西川渉、99.2.25)

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