ホームレス内閣

 

 先日来の加藤紘一の醜態ぶりと政界の醜悪ぶりは、今さら論評する気にもなれない。おだてに乗りやすく、恫喝に弱いエリートの、見ている方が恥ずかしくなるような典型であった。

 このクーデターが鎮圧されて出来たのが第2次森改造内閣だそうである。これまたさまざまな評価があって、みにくい体躯の「重量級内閣」とか、次の失言までの「短命内閣」とか、自分では何もしない「政策まる投げ内閣」とか、第2次ではなくて「大惨事内閣」などといわれている。

 そんな中で『読売新聞』(12月6日朝刊)は閣僚各人の「IT度」なるものの採点表を載せて、「特訓が必要」という評価をしていた。「IT(情報技術)革命」を21世紀の重要な国家戦略と位置づけている内閣として、その担い手がどのくらいコンピューターを使いこなしているか。18人の新閣僚の「IT度」を探ったというのである。採点基準は〈1〉ワープロソフトを使えるか、〈2〉Eメールをやり取りしているか、〈3〉個人のホームページを開いているか――の3点について○か×で採点するもの。結果は下表の通りだったそうである。

 

第2次森改造内閣の「IT度」

閣僚・役職

ワープロ

メール

ホームページ開設

森 首相

×

×

×

高村 法相

×

×

河野 外相

×

×

×

宮沢 蔵相

×

×

町村 文相・科技庁長官

×

坂口 厚相・労相

×

谷津 農相

×

×

平沼 通産相

×

扇 建設・運輸・国土・北海長官

×

×

×

片山 郵政・自治・総務庁長官

×

×

×

福田 官房長官

伊吹 国家公安委員長

×

×

柳沢 金融再生委員長

×

斉藤 防衛庁長官

額賀 経企庁長官

川口 環境庁長官

×

橋本 行革担当相・沖縄長官

笹川 国務相

×

×

[出所]読売新聞――閣僚名は姓のみとした

 

 この表によれば「IT度ナンバーワン」は橋本龍太郎。毎朝メールをチェックし、ホームページにも自分の所感を書きこんでいるらしい。川口環境庁長官(サントリー元常務)も使いこなしている。

 福田官房長官、高村法相、柳沢金融再生委員長は、いずれもEメールを受信専門で使っている。福田官房長官の事務所は、「iモード対応の携帯電話を持っているので、私たちからの連絡はメールで送っている。ただ、本人から発信は出来ない」

 IT担当の額賀経企庁長官は「自分でメール交換やインターネット検索をしている」といったが、そのホームページは7月27日から更新されていない。 宮沢蔵相もホームページを開いているが、内容は2年前の論文や、かなり前の著書の紹介、幼少時からの写真集などだった。

 肝心の森首相は7月にパソコン講習を始めたが、パソコンを起動させる段階で挫折したままだという。

 こんなていたらくだから、私は首相の言う「イット革命」だか「アイテー革命」だか「イテー革命」というのは誰かに吹き込まれた何とかの一つ覚えだとばかり思っていた。ところがさにあらず。一国の首相という立場を利用して「IT革命」の笛を吹きながら、自分たちは陰に回ってIT関連の株を買っていたというニュースが報じられた。

 多くの政治家がそうやって金儲けをたくらんだけれども、株の値段はいっこうに上がらず、中には下がったり、紙屑と化したものもあって、損をしたほうが多かったらしい。損をしようと得をしようと、どちらにしても、これはインサイダー取引ではないのか。経済人が同じことをやると後ろに手が回るはずだが、政治家の場合はどうなのか。国家ぐるみのインサイダー取引と思われるが、司法当局はよく調べてもらいたい。

 同じような技術革新を国の重要政策に掲げているのがアメリカである。というより、日本がアメリカの真似をしたわけだが、本家の方はインフォーメーション・テクノロジーだけではない。バイオテクノロジーとナノテクノロジーをも合わせて、IT、BT、NTという3つの技術革新を国の重要施策としている。

 日本は、その中の一つだけをいただき、しかも本来の技術開発ではなくて、株の値上がりで金儲けをしようというのが目的だった。さすがに日本の政治家である。一つ覚えの馬鹿どころか、きわめて賢い連中だったことが証明された。

 

 最近はホームページを持たぬものは「ホームレス」というそうである。上の採点表でもホームレスが半分ほどいるうえに、IT株で損をして、ますます多くの閣僚がホームレスになったのではないか。つまり、これは「ホームレス内閣」である。

 といっても、ホームページの有無やコンピューターを使えるかどうかというだけの問題ではない。その程度のことで閣僚の資質が問われるはずはない。問題は彼らが国家という家を見失っているのではないかということである。

 これでは国民も帰るべき家がなくなり、途方に暮れるほかはないであろう。

(小言航兵衛、2000.12.9)

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