日本のヘリコプター数

 

 ときどき日本のヘリコプターは何機くらいあるのかと訊かれる。そんなときに困るのは、自衛隊機の数がはっきりしないことである。民間機の数は運輸省が公表している登録機数の集計を見ればいいが、自衛隊機は軍事上の秘密があるのかどうか、なかなか明確な数字を見ることができない。何も昔の「軍機」のような絶対極秘というわけではないだろうが、積極的に公表することもないというのであろう。
 
 そんなことを考えていたとき、最近の英『フライト・インターナショナル』誌(97年9月10日号)が、世界の軍用機の集計調査を特集しているのを見つけた。世界中の機密をどのようにして集めたのかは知らないが、この中にはむろん自衛隊機も含まれていて、その数を勘定すると次表のような結果になる。もとより正確なものではないかもしれぬが、当たらずといえども遠からず。ここに私自身のメモの代わりに掲載しておくこととしたい。

機 種

機 数

合 計

総 計

航空自衛隊

CHー47Jチヌーク
川崎KV-107
UH-60Jブラックホーク

15機
24
15

54機

676機

海上自衛隊

MH-53E
S-61A/SH-3A
SH-60Jブラックホーク
OH-6D

10
58
62
12

142機

陸上自衛隊

AH-1Fコブラ
CHー47Jチヌーク
川崎KV-107 U
UH-60Jブラックホーク
AS332L
UH-1H/Jイロコイス
OH-6D/J
OH-1

85
38
11


142
194

480機

 
 
 ついでに、ヘリコプター以外の自衛隊機についても、この資料から数えてみると次表のようになる。

固定翼機

ヘリコプター

合 計

航空自衛隊
海上自衛隊
陸上自衛隊

824機
199機
18機

54機
142機
480機

878機
341機
498機

合   計

1,041機(60.6%)

676機(39.4%)

1,717機(100%)

 つまり自衛隊のヘリコプターは全体の4割を占めている。もうひとつついでに、民間ヘリコプターの機数ははどのくらいあるのだろうか。運輸省の集計では次の通りである。

平成9年6月末

レシプロ単発
タービン単発
タービン双発

226機
522機
286機

合    計

1,034機

 
 
 この数がアメリカの4,500機、カナダの1,500機に次いで、世界で3番目に多いことはよく知られている通りである。また固定翼機を合わせた民間航空機の総数は次表の通りとなる。この表から見ると、民間機の全体に占めるヘリコプターの割合は半分近い。
 

      日   本

平成9年6月末登録機数

構成比

飛 行 機
ヘリコプター

1,235機
1,034機

54.4%
45.6%

合    計

2,269機

100.0%
 
 
 民間ヘリコプターの割合がこんなに多い国は、世界中探してもまず見当らない。ほとんどの先進国は3〜4%程度で、世界の平均もそのくらいである。たとえばアメリカの場合、FAAの集計では次表の通りとなる。すなわちヘリコプターはわずか3%弱に過ぎない。

   米民間機登録機数

機数

合 計

構成比

大型ジェット機
コミューター機
エアタクシーおよび汎用

4,426機
2,986機
171,500機

178,912機

97.55%

ヘリコプター

4,500機

2.45%

合    計

183,412機

100.00%

 もっともアメリカの登録機数はややあいまいな点があるらしい。というのは、機体が外国へ売却されたり、事故で消滅したようなときも、きちんと抹消登録がされないからで、上表の数字を公表しているFAA自体が「推定」という文字をつけ加えている。したがって別の推計では、米国のヘリコプターは6,000機前後という人もあり、10,000機以上という説もある。
 
 日本の民間ヘリコプターの内訳がどうなっているのかは余りはっきりしない。さまざまな断片的な材料から推測すると、おおよそ次のようなことではないかと思われる。

ヘリコプター数

構成比

官公庁

消防・防災
警 察
海上保安庁
建設省
北海道開発庁

58機
89機
44機
3機
1機

18.9%

民  間

事業会社
新聞・放送
自家用ほか

550機
95機
190機

81.1%

合   計   

1,030機

100.0%

 
 
 この表から見ると、最も多いのはヘリコプター事業会社の保有機で、全体の半数余りを占める。しかし注目すべきは警察、消防、海上保安庁など、政府機関の保有機が合わせて195機で2割近くを占めるということである。
 
  こういう現象も、世界的には余り見られないのではないだろうか。特に阪神大震災いらい、防災を名目とする政府機関や自治体のヘリコプターは一挙に増加した。いまも、増加しつつある。もとより、これらが人命と財産の保護に有効に使われるのであれば、いかに高額の税金を使ってもいいであろう。
 
 だが今の日本政府は、自治体も含めて、この多くのヘリコプターをどこまで有効に使いこなす体制を取っているか、いささか疑問なしとしない。
 
 もしも今、東京や横浜が阪神大震災のような大災害に襲われた場合、ヘリコプターは都市火災や人命救助のために、どこまで有効に使われるか。私の見るところ、阪神大震災の教訓はいっこうに生かされるようすもなく、再び神戸の二の舞が起こるような気がしてならない。これが杞憂に終われば幸いである。

(西川渉、97.10.2)

 


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