軍用ヘリコプターの用途

 

 

 

 これは先に本頁に掲載した日本の自衛隊機および民間機の数に関する話題の続きである。というのは、わが国では自衛隊機も民間機も、ヘリコプターの占める割合が非常に高いが、世界的には3〜4%前後ではないかと書いた。確かに民間機はいろいろな集計からを見てもそんな程度であることははっきりしているが、軍用機については、そうした集計は余り見られない。そこで、もう一度、英『フライト・インターナショナル』誌(97年9月10日号、軍用機特集)でアメリカやイギリスの機数を数えてみた。

 すると次表の通り、意外なことが判明したのである。

 

 

欧米4か国の軍用機数

固定翼機

ヘリコプター

合  計

アメリカ

空 軍

空軍予備役・州兵

海 軍

海兵隊

陸 軍

陸軍予備役・州兵

合 計

(構成比)

4,204

1,832

3,414

542

105

141

10,238機

(59.3%)

174

41

1,433

659

2,766

1,904

7,013機

(40.7%)

4,378

1,873

4,847

1,201

2,871

2,081

17,251機

(100.0%)

イギリス

空 軍

海 軍

陸 軍

合 計

(構成比)

797

51

28

876機

(51.4%)

232

192

385

809機

(48.6%)

1,007

243

413

1,663機

(100.0%)

ドイツ

空 軍

在米訓練機

海 軍

陸 軍

合 計

(構成比)

540

62

74

――

676機

(46.8%)

103

――

39

627

769機

(53.2%)

643

62

113

627

1,445機

(100.0%)

フランス

空 軍

海 軍

陸 軍

合 計

(構成比)

860

300

9

1,169機

(56.4%)

93

122

690

905機

(43.6%)

953

422

699

2,074機

(100.0%)

 つまり、少なくとも、ここに掲げた先進4か国では、思いのほか沢山の軍用ヘリコプターを使っているということである。その割合は何と日本よりも多いほどで、別頁に示すように自衛隊のヘリコプターは39.4%であった。

 余談ながら、ドイツ機の中には旧ソ連製の航空機が含まれる。東ドイツが使っていたもので、ミグ29A戦闘機が23機、Tu-154M輸送機が2機、ミルMi-8ヘリコプターが3機などである。

 細かい数字をいちいち数えていくのは面倒なので、この代表的な4か国だけにとどめたが、おそらくほかの国も同じような傾向ではないのだろうか。では、これだけ高い比率を示すヘリコプターは、いったいどんなことに使われているのだろうか。4か国だけではあるが、用途別の内訳をみると次表のようになる。

 

軍用ヘリコプターの用途

輸送

攻撃

観測連絡

訓練

捜索救難

対潜水艦作戦

汎用その他

合計

アメリカ

イギリス

ドイツ

フランス

1,473

110

284

154

1,437

167

205

185

770

160

96

355

574

99

42

71

351

87

122

100

187

113

17

40

2,221

73

3

0

7,013

809

769

905

合計

2,021機

1,994機

1,381機

786機

660機

357機

2,297機

9,496機

構成比

21.3%

21.0%

14.5%

8.3%

7.0%

3.8%

24.1%

100.0%

 こうしたヘリコプターの利用面を戦争の歴史に照らして見るならば、第1にヘリコプターは第1次大戦もしくはそれ以前からの騎兵隊の馬に代わるものであろう。実際、米陸軍などには「ヘリコプター騎兵隊」といった部隊が存在する。

 これで陸軍の機動性が大きく向上することになり、そうした高い機動性が求められる進攻輸送用の機材は、上表では21%余の最も高い比率を占めている。

 もうひとつは第2次大戦時から強大になった戦車隊に対抗するためであろう。特に西欧諸国は東方から攻め込んでくると想定されたソ連の戦車に対抗するために攻撃ヘリコプターの性能を上げ、機数を増やしていった。もちろん現在は、その恐れがなくなったけれども、上表では今なお攻撃ヘリコプターも輸送用とほぼ同じ21%を占める。

 第3は戦後さかんになったゲリラ戦に対抗するためであろう。ベトナム戦争がその典型で、ジャングルの中にひそむゲリラをもぐら叩きのように叩くには敏捷な機動力が必要で、どうしてもヘリコプターに頼らなければならない。それでも米軍はベトナムのゲリラに敗れたのであった。このゲリラ戦に使われるのは主に上の2つ、進攻輸送用の機材と攻撃機である。

 

 そして、もうひとつは救急である。戦争には負傷者がつきものだが、そうした緊急事態に陥った兵員を、最前線で救出し、ただちに後方の救護所に搬送するにはヘリコプターしかない。

 事実、負傷兵の救出にヘリコプターが使われるようになって、戦場での死亡率は大幅に減少した。第2次大戦中は負傷者の4.5%が死亡したが、負傷者の護送にヘリコプターがに使われるようになった朝鮮戦争では2.5%に減り、ベトナム戦争では1%まで減った。朝鮮戦争で使われたのは主にベル47とシコルスキーS-55といった小型ピストン機であったが、ベトナムではベルUH-1やシコルスキーS-61、CH-53など大型タービン機が多くなった。

 ヘリコプターで救出された人数は、朝鮮戦争では1950年8月4日(初めてヘリコプターが負傷兵の搬送に使われた日と記録されている)以来、戦争終結の53年7月までの3年ほどの間に約2万人であった。一方、ベトナムでは1962年4月から10年余り、ヘリコプターに救出搬送された負傷者は、兵員と民間人を含めて100万人近くに上る。

 実は現在、路上の交通戦争で負傷した人を救出するのに世界各国でヘリコプターが使われているのは、こうした実戦上の経験から生まれた方策である。そこへ行くと日本は、この半世紀、戦争もしなかったけれども戦場で人を助けた経験もなく、したがってヘリコプター救急もやろうとしない。

 その人命軽視ぶりは、ベトナム戦争や朝鮮戦争はおろか、第2次大戦時と変わらないと言わざるを得ない。

(西川渉、97.10.10)

 

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