航空の現代電脳篇 → ホームページ作法(15)

無 知 と ケ チ

 

 先月のあの出来事は何日だったか、昨年夏のあのゲームの結果は何点差だったか――などという少し前の出来事を正確に知るにはどうすればいいのか。何十年か何百年も前の歴史上の出来事ならば年表を見たり百科事典を調べればいいのだが、数日前、数か月前、数年前のこととなると、年表や百科事典では調べがつかない。

 そこで便利なのはインターネットということになるが、なぜか日本の新聞サイトは今日の記事は載せていても、昨日までの記事はみんな隠してしまっている。どの新聞社を見ても、談合でもしているのかと思うほど一列横隊で、どこをどう探しても少し前の出来事を知ることはできない。

 そこへいくと、アメリカの『ニューヨーク・タイムス』、『ワシントン・ポスト』、『USAトゥデイ』、またイギリスの『フィナンシャル・タイムス』などは今日の記事はもとより、過去の記事も決して隠してはいない。そのうえ検索機能がついているから、多数の関連記事を簡単に探し出すことができる。日本の新聞サイトには検索機能もないから、今日の記事であっても順番に見てゆかねばならない。そして過去のことを調べようとすると、料金を払えという。朝日新聞などは月5,000円という法外な値段である。

 サンケイ新聞は、しばらく前まで日付によって記事を探すことができた。これも余り便利な方式ではなかったが、ないよりはましだった。けれども今は、それもなくなって、とにかく料金を払わなければ見せてくれない。 

 おそらく日本の新聞社は、普段は民主主義を標榜し、庶民の味方のような顔をしているが、どうやら腹の中は違うらしい。中央集権や官僚統制の打破のためには情報の伝播がいかに重要であるかも知っているには違いない。けれども、官庁の記者クラブに寄生しながら、大企業相手の商売のことしか考えていないのであろう。

 たしかに大企業からすれば月5,000円という情報収集のための経費は何でもないかもしれない。わが家でも朝日に月3,925円、日経に4,383円を払っている。合わせて年間10万円の新聞代である。このくらいの料金を払っている者には、インターネットを検索するくらいの権利は与えてくれてもいいのではないか。現に米『ビジネス・ウィーク』誌などは定期購読をすることによって、ウェブ・サイトの中味も自由に見ることができる。その料金は年間68ドル、ウェブサイトを見るだけならば59ドルである。

 いつぞやも朝日の記者に、日本のヘリコプターは何故こんなに高いのかと訊かれて返答に窮したが、アメリカとの比較でいうならば新聞だってヘリコプターに負けぬくらい高いのではないか。あのとき日本の新聞は何故こんなに高いのかと反論すればよかったと、今になって悔やまれる次第である。

 ちなみに朝日新聞の月5,000円というサイト閲覧料金は『ウォールストリート・ジャーナル』のほぼ1年分である。同サイトの閲覧料金は年間59ドル。同紙の定期購読者ならば年間29ドルで全ての権利が与えられる。

 日本の放送局は新聞よりもっとひどい。NHKのサイトなどはお恥ずかしい限りで、ニュースの類は全く掲載されていない。画面だけは無闇に明るく、役者とアナウンサーの作り笑いが並んでいるが、その内容は番組の予告と放送審議会の記録しかない。これでは単なる宣伝である。公共放送でございといいながら、到底マスメディアとしての自覚があるとは思えない。

 再び外国の例を引くならば、イギリスBBC放送も米CNNも、ウェブサイトはニュースが主体である。むろん過去の記事も検索できる。NHKも公共放送というからには、宣伝だけでなく、先ずは放送されたニュースの原稿から掲載して貰いたい。ちなみにわが家では、このふやけたNHKに年間25,520円を取られている。そろそろ国営放送などは廃止する時期にきているのではないだろうか。

 

 ともかくも、ちょっとした調べもののために日本のメディア・サイトを訪ねたところ、全く役立たずの内容ばかりで、役に立ちそうな部分は全て隠されていた。これでは折角のインターネットやハイパーテキストの機能が生きてこない。おそらく各社とも、その辺りの理解ができていないのだろう。それでいて欲の深さだけは人一倍だから金儲け主義ばかりが目につく出来となってしまった。

 そのような無知とケチが日本のメディアを無力なものにすると同時に、官僚専制を許しているのである。役所に向かっては情報公開などと言いながら、自分の方は情報隠しをしているのだ。もっと大らかな気持で、安くて合理的で便利で、しかも的確なホームページを作って貰いたい。

 というわけで、どなたか過去の記事が自由に読める日本のメディア・サイトをご教示いただければ幸甚です。

西川渉、99.4.20)

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【後記】

 上の記事でお願いした日本の無料メディア・サイトをご教示いただきました