インターネット・ルールを守る





『インターネット活用法』

(古瀬幸広著、講談社ブルーバックス、1996年7月20日発行)

 別項の『インターネット“ホームページ”の作り方』が初級の教科書とすれば、これは中級の教科書といえようか。前半はホームページを見るためのインターネット活用法を書いたものだが、ホームページを作るという観点からは「第5章 私家版情報発信法」――全体の4分の1が面白く、かつきわめて重要な問題を提起している。

 著者はまず本書の冒頭で、インターネットの入門書は粗製濫造が氾濫し、「インターネットの背景にある思想や哲学をまったく伝えておらず、第二に技術的にも間違った解説が多い。特にひどいのは、ホームページのつくりかたの類だ。わざわざホームページの可能性を損なうようなやり方を堂々と勧めていたりする。初心者向けの書物に誤りが多いのは、じつに罪深いことだと思う」と憤慨している。

 どこが罪深いのか。今年1月に本書を読んだときは、まだ私の経験や知識が初級でしかなかったために、よく分からなかった。しかし、いま改めて読み直してみると、いささかわかるような気がする。

 そこで、いきなり第5章のホームページ作法に飛ぶと、「HTMLはレイアウトの言語ではない。……だからはっきり言って……必死にレイアウトに凝るのはナンセンスなのだ。もちろん少しでも見やすく、美しくなるように……努力することは重要である。……だが、それ以上凝っても、相手に伝わらない可能性が高い」

 何故ならば、画面のレイアウトは、たとえば文字の大きさひとつにしても、受け手のブラウザによって変わるからである。では何故ホームページ作製の手段として、こんな曖昧なHTMLというマークアップ言語を採用したのか。

 それは、どんな内容でも確実、迅速に伝送するためである。もうひとつ、特に著者の強調するところは「世界大のデータベースをつくるのが容易になるということだ」。逆にホームページの作者がHTMLのルールに従わなければ、ネットワーク上にはゴミの山がたまるばかりで、しっかりしたデータベースをつくることはできない。

 たとえば各頁の「大見出しは<h1></h1>で囲み、タイトルは<title></title>で囲む。……これなら、世界中のコンピューターが理解できる。誰も誤解することがない。……検索ロボットで世界中のWWWサーバーから<h1>タグで囲まれたものを抜き出せば「世界の総目次」のできあがりだ」。

 文書を単なる孤立文書に終わらせず、データベースとして利用できるようになる。最もコンピューターらしい応用が、これで実現できるのである。ところが、<h1>タグなどを「本来の目的とは違う目的で用いているページが多い……せっかくコンピューターが誤解しない方法を編み出したら、人間の法がめちゃくちゃやりだした……たとえば字を大きくしたいところで<h1>タグを使う」。

 そのため、検索ロボットで<h1>タグを抜き出そうとすると、「<h1>ウシシ</h1>」などというゴミまでが大見出しとして集まってくるから、今度は人間が手間ひまかけてゴミの山を分別しなければならない。

 とすれば、逆に大見出しを<h1>タグで囲んでないと、検索ロボットが探しにきても気付かずに通りすぎてしまうかもしれない、というのは私の類推である。どうりで「航空」というキーワードで検索しても本頁が出てこなかった。

 それというのも、当初しばらくは本頁の大見出しを<h1>タグではさんでいたが、そのうちに見栄えを良くするために文字を画像に変え、<h1>タグの使用をやめてしまったからである。あわてて本書に従って3日ほど前から、見出し画像は英文字に直し、日本文字の大見出しはきちんと<h1>タグではさみ、中見出しは<h2>タグではさむように作り直したところである。

 これで著者のいうインターネット・ルールに適合できたかどうか、まだ心もとない点もあるが、交通規則だってみんながルールを守らなければ渋滞したり事故が起こったりする。情報やデータの往き交うインターネットも同じことであろう。

(西川渉、97.5.4

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