新知事の足を引っ張るな

 

 石原慎太郎氏がめでたく東京都知事選に当選した。そのことはいいのだが、どうも周囲の反応が良くない。みんなでよってたかって足を引っ張ろうという姿勢が見える。選挙が終わったばかりで、まだ何の話をしかけたはずもないのに、文部省は石原氏の道徳教育に警戒感を示し、防衛庁も横田基地の共用について都知事にそんな権限はないと釘をさしてくる。

 石原氏の方にも挑戦的な言動があって、それが周囲を刺激するのだろうが、今回この人が都知事になるのは、その背景に選挙を通じて示された東京都民の意思があることを忘れて貰っては困る。

 テレビで見ていても、たとえば東京都の職員の中には妙な警戒感を示す人がいるが、知事と職員との関係は対立でもなければ追従(ついしょう=へつらい)でもないはず。石原氏の掲げた公約について、都の職員が公明党を中心とする都議会議員とかたらって、あれはできない、これは無理といって、何とかやめさせようなどというようなことはゆめゆめ考えないように願いたい。

 同じようなことをやった結果が、アオシマのような骨抜き知事をつくったわけで、クラゲ知事は確かに怠惰な職員にとっては都合が良いかもしれぬが、都民の利益に反することは間違いない。

 東京都の職員は、自分たちの役目が知事を助けて公約を実現することであると心得るべきであろう。むろん、個人的な反対はいっこうにかまわぬが、それをやりたければ都の職員を辞めたうえで反対して貰いたい。

 

 都の職員には、横田基地の共用は自分たちの権限外などという権限はないはず。米軍との共用は都民にとっても利便性の向上であり、選挙民はそれを望んだからこそ石原氏に一票を投じたのである。ということは、石原新知事の公約は都民の希望であり、その実現は都民の希望を叶えることである。

 そのためには基地周辺の住民と話し合ったり、防衛庁と協議をしたり、運輸省と調整したり、米軍と交渉したり、何とかしてあの飛行場を民間機も使えるように努力すること。それが東京都の職員の任務であり、義務である。むろん石原氏の方も、横田を全面的に返せとか、米軍は出て行けなどとは言っていない。

 首都圏第3空港などはいつになったらできるのか、いっこう当てにならぬし、仮に実現するとしても莫大な費用がかかるだろう。それが横田を利用することによって、比較的短時間で、しかも比較的安い費用で実現するとすれば、それに越したことはない。そのうえ、これが実現すれば都民のためばかりではなく、関東一円の、特に西半分の人びとの利便性を上げることになり、世界中から東京へ飛んでくる人びとにとっても便利になる。

 世界の大都市の中で、東京が最も交通不便な行きにくい町であることは、今や世界のトップ・エグゼクティブたちの常識である。国際会議なども、東京で開催される回数はシンガポールや香港などよりもはるかに少ない。交通が不便で、物価が高くて、景気の悪い町へ、はるばると遠い国から高い交通費と長い時間ををかけて来てみれば、着いたところは都心から遠く離れた成田というのでは、それだけでどっと疲れが増すであろう。

 それでも成田へ着ければまだいい方で、たいていのビジネス機は着陸を拒否されて名古屋や仙台に降りなくてはならない。そこから新幹線や車で東京へ向かうのだから、そんな不便なトーキョーへ誰が行きたいと思うであろうか。

 石原氏の公約は横田基地の共用ばかりではない。防災体制の充実、徳目教育の促進、中小企業の振興など、さまざまである。それらの実現に向かって新知事に協力し、一緒になって努力するのが東京都職員の役目である。霞ヶ関に忠義立てをして妙な反抗などはなさらぬよう、都民のために是非とも快適な住みやすい東京をつくっていただきたい。

 (小言航兵衛、99.4.16)

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