<航空医療>

イタリアのヘリコプター体制

 米「エア・メディカル・ジャーナル」(AMJ)誌(2005年11-12月号)にイタリアのヘリコプター救急に関する文章があった。冒頭、イタリアには現在48ヵ所にヘリコプター救急拠点があると書いてある。10年ほど前は20ヵ所前後だったはずで、それが大きく発展したらしく、いささか驚かされた。

 そのことは、日本では余りよく知られていないので、ここにAMJ誌の記事を要約しておきたい。

 イタリアはご存知のとおり、欧州の南から地中海に突き出た半島で、平野は少なく、けわしい山岳地が多い。北部はアルプスに連なる。周囲にはいくつかの島があり、大きな島はサルジニア島とシチリア島である。国境はフランス、スイス、オーストリア、スロベニアに接する。

 国土面積は301,278平方キロ。人口は2004年の時点で推定57,887千人という。日本にくらべると、面積は8割、人口は半分以下というところであろうか。

 行政区域は20州から成る。各州は、いくつかの県に分かれ、県の総数は103である。

 救急本部は104ヵ所。全国統一の電話番号118番で救急要請を受け付ける。救急任務の実行責任は各州にある。したがって救急本部の運営や救急費用も州の負担である。ただし、いくらか連邦政府も負担しており、それによって各州の体制がばらばらにならぬよう、全国的な基準に合致するような形で維持されている。

 救急本部にはメディカル・ディレクターが常駐する。また、これらの救急本部は警察や救難機関と協力体制を保っている。医療機関との連動は当然である。

 救急本部に勤務する職員は、現場に出動する救急隊員など、国家資格を有する。現場救急にあたるのは救命救急士、看護師、医師である。


イタリアの代表的なヘリコプター運航会社
ヘリタリア(Helitalia)のアグスタA109-K2救急機。
機首に118の救急電話番号。右舷に救難用ホイストを装備する。

 救急ヘリコプターは全国48ヵ所の拠点に待機している。48ヵ所のうち4ヵ所は夏季だけの運用である。また12ヵ所は空港待機である。

 使用機種は下表のとおりである。当然のことながらイタリア製の機体が多く、アグスタA109が13機、アグスタ社が米ベル社のライセンスで生産したAB412が12機である。

 次いで欧州製のユーロコプターBK117が14機飛んでいる。そして新しいEC135が2機など。アメリカ製は3機のベル430だけである。

イタリアの救急機種

機   種

機   数

アグスタA109

13

AB412

12

ベル430

3

ユーロコプターBK117

14

EC135

2

AS365N3

1

AS350B

2

アルーエトV

1

合  計

48
 

 救急ヘリコプターの乗員はパイロット1〜2名、医師(通常は麻酔医や集中治療医)1名、看護師1〜2名から成る。これらの医療関係者は通常は病院に勤務しているが、期間を限って交替で救急勤務に就く。その資格は、プレホスピタル・トラウマ・ケアを含む高度の蘇生医術の訓練を受けたものでなければならない。なお、山岳遭難者の救護に向かうときは、救助の専門家が同乗する。

 救急ヘリコプターはそれぞれ救急本部と連携し、その要請を受けて出動する。また病院間搬送は病院の決定にもとづくが、これも患者の費用負担はない。

 救急ヘリコプターの拠点は全国48ヵ所というものの、今なおヘリコプター救急体制のできていない州もある。20州のうちヘリコプターのないのは4州である。うち一つはサルディニア島で、すでにヘリコプター救急の導入を決めていながら、まだ実行されていない。本土の3州は隣接州の応援を受けている。一方シチリア島は4ヵ所のヘリコプター救急拠点があり、充実した体制になっている。

 概して北部のアルプス山岳地のヘリコプター体制が充実している。また中部地域も良い。ヘリコプター救急は今や、医療の一部とみなされるようになっている。

 なお救急費用はすべて公費によってまかなわれ、患者には一切負担がかからない。

 AMJの記事はここまでである。これでイタリアのヘリコプター救急体制はおよそのことが分かるが、出動実積や救護患者数について全く触れていないのは残念である。いったい、どのくらい飛び、どのくらいの人がヘリコプターの救護を受けているのか。

 また、ヘリコプターにかかる経費は、救急医療の一環として公的費用でまかなわれているようだが、具体的な制度が分からない。国や州の予算でまかなわれるとすれば分担比率はどうか。金額はどの程度か。どのようにして決まるのだろうか。

 運航主体が誰であるかも書いてない。ヘリコプターの機種は詳しく登録記号まで一覧表になっているが、それらを誰が飛ばしているのか。おそらく民間ヘリコプター会社が主体ではないかと思うが、消防や警察の機体もあるかもしれない。民間機ならばチャーター契約は州政府との間で締結されているのか、それとも県か病院か。

 そんな疑問を残しながら、イタリア語が分からないのでインターネットで突っ込んでゆくこともできず、いずれ現地に飛ばなければと考える次第である。


ヘリタリアのBK117。胴体下面に大きく118の救急電話番号。
この会社はイタリア国内10ヵ所の救急拠点に待機しているらしい。

(西川 渉、2006.1.4) 

(表紙へ戻る)