外相、ご自愛あれ

 

 

 

 

 ここ数日間の田中真紀子の顔つきを見ていて、ちょっと心配なのは、だんだん目が吊り上がってきたことである。人間である以上、感情がおもてに出るのは避けられないところだが、もう少し気を鎮めて、冷静かつ女らしく外務官僚たちと対峙してもらいたい。

 外務大臣として今の問題をうまく処理できるかどうかは「伏魔殿」の魔物退治ができるかどうかに影響する。ここが正念場と心得る必要があろう。

 それにしても魔物たちの結束がこれほど固いとは思わなかった。むろん内部では出世のための化かし合いや足の引っ張り合いがあるのだろうが、外部に向かっては結束して省益や私益を守ろうというのだ。これを見ると機密費の私的な使いこみだって、ナントカ室長が単独でやったとは思えない。当然みんなで示し合わせて飲み食いやばくちに使い、その結果を協力し合って隠蔽したにちがいない。

「おれは伝票を燃やしておくから、おまえは入院しておれ」などと対策を講じたうえで内部調査をしても、何かが出てくる筈はない。泥棒が警察の代わりをやるようなもので、自分で自分の犯罪を捜査して自分が犯人でしたなどというバカがどこにいるものか。

 警察も何を恐れたのか、なかなか直接捜査に踏み切ろうとしなかった。おそらくは官僚と政治家の隠蔽工作が終わるのを待っていたのだろう。それならば森政権としては、会計事務所にでも調査を依頼すべきだった。ろくな調査もせずに、いい加減な処分で取り繕っておいて、いったん決まった処分を再審査するのは法規に違反するなどというのは屁理屈だ。

 前の外相がだらしなかったからこそ、今の外相が苦しんでいるのである。森君も今頃になって元老面をしながら、外相の対応はおかしいなどと発言しているようだが、昨日までの出鱈目を棚に上げて、そんなことを言えた義理か。

 外務大臣と官僚との間で今のような状態が続くと、外交業務が停滞して国益を損なうなどと、聞いたふうな口をきく評論家もいる。鳩山某も小さな声で同じようなことを言っていたが、そもそも長年にわたって国益を損なってきたのは外務省ではなかったのか。

 ODAと称して無駄な金を世界中にばらまき、教科書には文句をつけられ、近隣諸国には謝りつづけ、外国駐在員はCNNテレビから情報を取るだけ。それでいて政治屋の利権争いの道具に使われてしまっている。まさかブラックタイをつけて迎賓館のパーティに出向き、グラス片手に西洋の貴顕紳士と談笑するのが外交とでも思っているのではなかろうね。

 国連にあれだけの金を出しながら常任理事国にもなれない。それならば、せめて国内でリストラされた人材を国連職員として送りこむ。それくらいの就職斡旋でもやったらどうなのか。

 省内では大臣と官僚の間で意見の違うこともあろう。が、そのときは大臣7分、官僚3分くらいの割合で、官僚の方が譲るべきである。そのうえで最終的にどうしても意見の合わぬことがあれば、大臣の言い分にしたがうのは当然のこと。無責任な官僚に責任を取れなどとは、誰もいわないよ。

 ところが、大臣の指示に対して「分かりました」と言いながら実際は何にもしない。あるいは全く逆のことをやらかす。それでいて、ばれたときは「忘れてました」などとぬかす。つまり面従腹背というのは最も良くない。これこそは組織を乱し、機能を麻痺させ、国益を損なう。民間企業ならば無論クビである。 

 ついでに言うと、事務次官のクビはすげるのもすげ替えるのも内閣が決めるのだそうである。しかるに閣議の議題は、次官会議を経なければならないという。とすれば、次官連中は自分で自分のクビに関する議題を上程したり、阻止したりするのだろうか。

 要するに自分で自分の人事を決める上に、その結果は法律で守られる。まことに都合のいい制度だが、これを盾にとって、真紀子大臣も「法律を知っているのか」などと脅かされたらしい。新内閣にはこのあたりの矛盾も解消してもらいたい。

 真紀子大臣にはもう暫く、あまり目を吊り上げずに、頑張ってほしいと思う。ご自愛あれ。

(小言航兵衛、2001.5.13)

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