2人のビルと42頭の雌牛

 

 

 畏友山野豊氏から、今アメリカではやっているジョークが電送されてきた。

 モニカ・ルィンスキーはビル・クリントンと別れたのち、今度はビル・ゲイツの愛人に納まった。 世界最大の権力を持つ大統領のビルから世界最大の財力を持つ富豪のビルへと乗り移ったモニカは周囲に羨望の波紋を広げた。

 ところが1か月もしないうちに、モニカはゲイツと別れてしまう。友人が「何故そんなもったいないことをしたの」と訊くと、モニカはこう答えた。

「だってビル・ゲイツって、マイクロソフトなんだもの……」

 私はしばらく笑いが止まらなかったが、そのお返しに、山野さんにはイギリスの権力者の物語を送ろうと思う。

 ジョージ五世とメリー皇后が牛の品評会に出席したときのこと。皇后は「この牛は一日に42回の種付けをします」といわれ、「その旨を陛下に申し上げるように」といって、牛に賞を与えた。

 その話を聞いたジョージ五世は、驚きながらも「相手は1頭のメスだけか?」と訊き返した。「いいえ、42頭でございます」。答えを聞いた王は満足げに「その旨を皇后に申し上げるように」

 実は、このジョークは富山商船高専の言語学の先生らしい金川欣二氏のウェブサイトで見つけたものである。最近ほかの調べものをしていて偶然ぶつかったサイトだが、きわめて高尚なエッセイや創作やパロディがぎっしり詰まっていて、素晴らしい内容である。

 たとえば『笑説 大越中語辞典』の「はじめに」には「富山の言葉を多く取り上げるが、他意はない。鰤もない」と書いてあり、「…せん」という富山弁の説明には<「…しない」。富山の人は何でも否定的に聞くことが多いので多用される。例:「なんもせんからホテル行こ」>などと書いてあったりする。

 さらに、このサイトの中を読み進んでゆくと、もうひとつ牛のジョークにぶつかった。

 ある人類学者がヨーロッパの辺境で調査をした。箱にすわって牛の世話をしている老人と話をしていて、お腹がすいたことに気がついた。「今、何時だろう?」と独り言をいうと、老人が世話をしていた牛のキンタ○を持ち上げて「12時5分前」と正確に答えた。

 人類学者は驚いた。この老人は牛のキンタ○で時間が分かるのか、と。気を取り直して、聞いてみた。「どうしてそんなもので時間が分かるのですか?」「なーに、これを持ち上げると、向こうの教会の時計が見えるのでさぁ」

 これは他人の誤解を論じたエッセイの一部である。さらに「『サラダ記念日』の言語学」というエッセイでは、「18歳未満お断り」という注意書きを付けながら極めて真面目な長考を展開し、最後にどんでん返しにも似たみごとな結論(オチ)があって、読む者を驚嘆させ、かつ納得させる。

 知的で面白い恐るべきウェブサイトと言ってよいであろう。

(西川渉、99.11.13)

「本頁篇」目次へ) 表紙へ戻る