<小言航兵衛>

海綿脳の経営者

 

 一昨日の内閣改造で武部農相が交代した。BSE問題の責任を取らされたような格好だが、大元は昨年春の就任以前、欧州でBSEが広がっているにもかかわらず、牛骨粉などの飼料輸入について何の対策も取らなかった農水省の担当幹部が元凶である。

 結局は、いつものように大臣が追われて、厄人だけが残った。残った連中は、これで一件落着とばかりに胸をなで下ろしているのならまだ可愛気があるが、陰に回って高笑いをしているのではないのか。

 

 このBSE騒ぎによって、農水省が在庫肉の買い上げなどという制度をつくったために、食品企業の中には輸入肉の箱を入れ替えたり、ラベルを貼り替えて国産といつわる詐欺までやらかすところが現れた。これで解散に追い込まれた会社もあるが、まことに罪つくりな制度である。 

 同じようなことが、次は小売り業界に広がった。店頭に並べる肉の産地を偽り、日付を偽り、品種を偽るなどの悪事が次々と露見するようになった。これらのスーパーは、かつて肉でも乳製品でも、不祥事が発覚した企業の製品を売場の棚から次々と撤去して、自ら正義の味方を演じて見せた。

 撤去された製品をもう一度売場の棚に戻して貰うために、食品メーカーのセールスマンはもとより、トップ以下の全員が小売店に日参し、頭を下げて歩いたのではないだろうか。しかし何のことはない、それらの頼みをふんぞり返って聞いていた小売り店もまた、陰に回って同じような詐欺をやっていたのである。

 先おとといの北海道西友の返金騒ぎも、あいた口がふさがらない。よくまあ、ああいう愚鈍なことを思いつくものかと思うが、農水省が在庫肉を買い取る制度をつくったのと同様で、偽装肉を買った人にはレシ−トなどの証拠がなくても返金するといえば、善人をも悪人に変えてしまう罪つくりの結果になるのは当然のことである。

 しかも、元来は自らの罪滅ぼしのつもりだから、ふだんスーパーで買い物などしたこともないような連中に返金を要求されても反論できない。とうとう売上高の4倍もの金をふんだくられ、ばらまいてしまった。

 発端がBSE(牛海棉状脳症)だけに、あの会社の幹部連中も海綿みたいな頭になっているのであろう。

 海綿脳で考えるものだから金さえ返せばいいだろうという頓馬な結論になってしまう。むかし北海道にムネオ何某とかいう金の亡者みたいな代議士がいたが、同じ風土なのかもしれない。

 賄賂を貰って口をぬぐっていながら、発覚しそうになるとその金を返す。議会で「あれは1年間あずかっていましたが、先月お返ししました。法律に違反するようなことは何もしておりません」などとまくし立てるのをのを聞いたが、今や金を返せばすむという考えは代議士から小売店にまで及んでいたのである。

 それならそれで、途中で返金をやめるのではなく、何億円になろうと最後まで頑張るべきだった。これで手つかずの金がそこら中にゆき渡れば、北海道の経済もいくらかうるおって、立ち直りのきっかけくらいにはなったかもしれない。

 返金より前に法律があり、法律より前に倫理がある。普段は企業倫理などとぬかしながら、あれは口先だけのカラ念仏であった。

 

 航兵衛も西友株主のささやかな1人だが、もはや長いこと配当を受けたことはない。これだけの不景気ではやむを得ないことだし、別に貰おうとも思わないが、詐欺を働いた上に金をばらまくなどという愚行で損失を増やすようなことがあれば、次の株主総会で問題となるであろう。海綿脳の経営者も退陣を迫られるに違いない。

(小言航兵衛、2002.10.2)

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