<小言航兵衛>

座礁船炎上

 

 昨日から今日にかけて、伊豆大島の海岸に座礁した自動車運搬船が炎上したというニュースが報じられている。

 26日未明、車両3,800台を積んだ船が火災を起こした。けれども海が荒れている上に浅瀬で船が近づけないため、消火活動は難航、同日夜も炎上し続けたという。船は荒波の影響で船体が折れた後に出火したらしい。

 このため付近の住民も避難したが、特に大きな被害は燃料の重油が流出したことによる周辺海域の汚染と魚介類への影響で、テレビ画面に出てきた漁民の中には10年くらいでは回復できないという人もいた。

 この船はなんと10月1日の台風21号の高波や強風で流されて座礁、撤去準備と重油の抜き取り作業を進めていたものという。


(二つに折れた船体から黒煙が噴き上がる)

 この船火事のために、海上保安庁は巡視船やヘリコプターなどを出動させた。テレビ・ニュースでは保安庁のヘリコプターが飛んでいたり、消防艇が高いマストの先端からホースで水をかけている場面が見られた。けれども座礁船に近づけないため、放水も大した効果があるようには見えない。

 それならば何故、ヘリコプターで消火作業をしないのだろうか。座礁船の上空には多数のヘリコプターが舞っていたはずで、各テレビ局や新聞社のニュースはほとんど空からの映像や写真であった。現に海上保安庁のヘリコプターもテレビ画面に写っている。

 いったい保安庁機は何のために飛んでいたのか。誰か怪我人でもいたら助けるつもりで上空に待機していたのか。あるいは情報収集のためのビデオ撮影でもしていたのだろうか。それにしても現に目の前で大きな火炎が燃え上がっているのだから、周囲の海水をバケツでくみ上げて火事の上からぶちまけたらよかろうにと思う。

 保安庁が放水用のバケツやタンクを持っていなかったとしたら、それは手ぬかりというものである。

 しかし仮にバケツがなくても、なぜ消防ヘリコプターが出動しないのだろうか。東京消防庁は海上保安庁のベル212の2倍、3トン以上の搭載能力を持つスーパーピューマ3機を保有し、その消火能力を誇りとしているが、こういうときに使わずしていつ使うのか。

 あれは船の海難事故だから消防庁の任務ではないというのだろうか。山火事なら消しに行くけれども、海の火事は保安庁の仕事だというのか。保安庁の方も、これは自分の縄張りだから他の機関には触れさせないというのかもしれない。

 こんなときに行政区分などどうでもいいことだが、どうしてもそれにこだわるならば、行政に関係のない民間ヘリコプターをチャーターしてもよかったはず。この季節は夏の繁忙期が終わって、民間企業の多数のスーパーピューマも骨休みをしているところである。これが3トン積みのバケツを持って駆けつければ、周辺の海水をいくらでもくみ上げて効果的な消火ができたであろう。

 いずれにせよ、いつまでも火災が消えずに、迷惑を被るのは付近の住民であり、漁業者であり、自然環境である。

 現場は東京のお膝元である。にもかかわらず、的確、迅速な手が打てなかった。現に多数の民間機がテレビ局にチャーターされて飛来した。しかるに肝心の消火には、ヘリコプターが全く使われなかった。

 日本の危機管理機関は、ことあるごとに阪神大震災の教訓を唱える。けれども実は口先ばかりの空念仏を唱えるだけであったことが、またしても露見したのである。もっとも、阪神大震災などとうの昔に忘れ去られたのかもしれない。

(小言航兵衛、2002.11.27)

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