<帰国報告>

ボーイング工場を見る

 この10日余りアメリカに出かけていました。目的はアメリカのヘリコプター救急をメディカル・コントロールの面から調査することでした。

 そのためアリゾナ州フェニックスで3日間にわたって開催された 航空医療搬送会議(AMTC:Air Ambulance Transport Conference)に参加、近郊の救急ヘリコプター運航会社2社を訪問しました。そこからネバダ州リノへ移動し、救急車からヘリコプターまでリノ周辺の救急活動の全てを運営するNPO法人を訪ね、さらにシアトルへ行ってハーバービュウ・ホスピタルを見学、その航空医療を担当するNPO法人エアリフトでレクチャーを受けました。

 また、こうした救急問題の合間に、フェニックスのMDヘリコプター社の製造工場を見学、シアトルではボーイング社のレントンおよびエバレットの両工場を見ることができました。南仏トゥールーズのエアバス社には何度か行ったことがありますが、ボーイング訪問は実はこれが初めてでした。これらの見聞は、いずれまとめて、本頁でもご報告する予定です。

 なおボーイングへの通りがかりに見かけたのが、下の747-400貨物機を改造した特殊輸送機747LCF(Large Cargo Freighter)です。


シアトルのボーイング・フィールドで見かけた747LCF

 747LCFは、新しい787の製造に使う構造部材を運ぶための改造機です。747-400を基本として台湾で改修され、9月9日に2時間4分の初飛行をしました。そして9月16日ここボーイング・フィールドへ空輸されたものです。翌日からは早速試験飛行が始まりましたが、型式証明取得までには今後250時間の飛行が必要だそうです。操縦感覚は通常の747-400と変わりがないというのが、パイロットの感想です。

 この飛行機は胴体が72mまで引き延ばされています。747ファミリーとして、こうしたストレッチは、同機の開発以来初めてだそうです。また垂直尾翼も、左右の安定性を高めるために先端が伸びて、機体の全高は747本来の19.4mから21.6mになりました。

 巨大な胴体は、後部がヒンジによって折れ曲がり、大型貨物を積みこみます。このように胴体尾部をスウィングさせて開けるのは、特殊車両で地上から支えながらおこなうとか。また貨物の積みこみにも特殊車両が用意されているようで、これらを使って日本やイタリアで製造された787の大型構造部品が積みこまれ、シアトルへ運ばれます。787を1機製造するのに、747LCFによる部品輸送は12回の飛行が必要らしく、787の製造について世界的な分業が成り立つのも、このみにくい飛行機のお陰だそうです。

 機内の貨物搭載部分の容積は、通常の747-400F貨物機にくらべて4倍。機内はコクピットを除いては与圧がないそうです。

 ボーイングは当面、この747LCFを全部で3機製造する計画ですが、将来787の受注が伸びれば、4〜5号機もつくるとのことです。

 ボーイングの工場では、関係者のご努力をいただき、特別に写真撮影を許されました。その結果300枚以上、工場外部も入れると、合わせて370枚余の写真を撮り、ご案内をいただいた先方の人を呆れさせました。なにしろ下手な写真なので、数打ちゃ当たるのではないかという精神です。下はその中の1枚です。

  上の写真は、レントン工場で最終組立て段階のボーイング737です。このベストセラー機は今年1月に量産5,000号機が完成、1〜9月の9ヵ月間に225機を引渡しました。これは毎月25機の製造に相当し、週日に直せば毎日1機以上をつくっているわけです。それでも最近の受注残は1,360機をかかえ、これらの注文をこなすのに大わらわでした。

 737の組立てラインは車の製造と同じ流れ作業で、自動的に少しずつ動いています。ただし、飛行機のような巨体をのせるコンベアベルトをつくるわけにはいかず、工具箱だろうと扇風機だろうと、ハシゴだろうと机だろうと、シャツだろうとゴミ缶だろうと、あらゆるものに車をつけて相互に連結し、機体と一緒にエンジンのついた牽引車で引っ張っています。まるで乞食の引っ越しみたいだ、などといえば、恩義を受けたボーイングに怒られそうで、その場では黙って写真を撮るにとどめました。

 移動速度は毎分2インチ。つまり秒速1ミリにも達しないので、じっと見ていても動いているようには見えません。しかし車輪の前に物を置いておくと、いつの間にか車輪が近づいているのに気づかされます。いずれエバレット工場で始まる787の製造でも、この moving line 方式を採ると聞きました。

【関連頁】

   ボーイング747改造の特殊輸送機(2006.9.18)

(西川 渉、2006.10.7)

表紙へ戻る