<小言航兵衛>

三途の川

 古い中国の笑い話に次のようなものがある。親父が川でおぼれているのを見た子どもが、通りかかった人に助けを求める。すると、その人がいくら出すかと訊く。子どもがいくらいくらと答えると、その助っ人が「それじゃ安い、もっと出せ」という。子どもが答えかけると、川の中の親父が「それ以上は出すな」といったまま、ブクブクと沈んでいった……。

 中国人の勘定高いケチを笑ったものだが、新聞を見ていると日本人も笑ってはいられなくなったことを感じる。IT成金が奇策をもって何百億、何千億の金をつかみ取り、その動きに乗って自分も一攫千金をねらった人びとが群がって株の取引にうつつを抜かす。しかも、奇策がおかしいとなった途端に暴落して市場取引が停止する。

 今朝の「朝日新聞」には、そのことが1面トップで大きく報じられている。ところが社会面には「ドクターヘリ、初期治療の切り札、高い導入費が普及の足かせ」という記事が見える。

 ワラにもすがりたい怪我人や急病人にとって、有効な手段はドクターヘリである。それが分かっていながらやらないのは、金がないからという理由である。全国50ヵ所にドクターヘリを配備しても、それに要する費用は年間100億円程度。IT成金たちの小遣いにも足りない金額であろう。

 あぶく銭はそこら中を浮遊しているが、人助けには使えないらしい。今やすっかり金の亡者となった日本人は、昔の中国人同様、三途の川にブクブクと沈んでゆくほかはあるまい。

(小言航兵衛、2006.1.19)

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