<小言航兵衛>

強硬大統領と軟弱大統領

 ロンドンの旅客機爆破テロ計画が未然に防止できたのは良かったが、世界中の空港で保安検査がきびしくなってしまった。今後なお同じようなテロの恐れがあるのだろう。

 このところ世界の航空界には景気回復のきざしが見えていた。しばらく前まで倒産の危機にあった米エアラインも、今年になって利益が出はじめ、夏休みに入って最大のかき入れ時を迎えたばかりだった。それが一転して、再び不況の底へ突き落とされたのである。もっとも、アメリカ対イスラムの構図の下で米エアラインが狙われたとすれば、中東諸国のエアラインは安心だろうから、そちらは乗客が増えるかもしれない。つまり、風が吹けば桶屋がもうかるように、テロが増えればアラブがもうかるといえば言い過ぎだろうか。

 今回の爆薬が液体だったというので、旅客はいっさいの液体を持ち込んではならぬということになった。香水も化粧水も水ボトルもお酒も、みんな捨てなければならない。成田空港では化粧水を取り上げられたどこかの奥さんが「不潔な旅になります」とみごとな冗談を飛ばし、ロンドンの空港では何もかも捨てさせられて「旅に出る前から恥のかき捨てになった」という女性もいた。

 そればかりか、普通の手荷物もキャビンに持ち込めないので、頭上の手荷物入れはガラガラ。パソコンの持ち込みも駄目らしいから、機内で仕事ができないというビジネスマンも出てこよう。その分だけ、エアラインの預かる荷物が増えて荷役係の仕事が増え、コストが上がると心配する人もいる。


旅の恥をかき捨てさせられた

 とはいうものの、長い行列はかなわんというので、ビジネスクラスやファーストクラスの乗客が増えることにもなろう。搭乗手続きが比較的早くすむからである。しかし、同じ考えの人が増えると、今度はそっちのカウンターの行列が長くなる。

 そこで、自家用機や社用機の需要が高まるだろうという予測が出てきた。これならば空港の混雑を避けて、搭乗手続きは要らないし、テロのおそれもない。

 そのためにビジネスジェットが増えるのはいいとしても、余り増えすぎると次は空域の混雑がひどくなり、航空管制のあり方にまで影響が及ぶ。心配の種は、どこまで行っても尽きない。


「搭乗券を拝見」
(保安検査いずれ裸にされる日も)

 これで、世界の疑心暗鬼はますますつのってきた。911テロにさかのぼって、この5年間を思い起こしてみると、全ての元凶はブッシュ大統領の強引かつ強圧的な報復策に始まったのではないかというのが航兵衛の見方である。クリントンのように、ホワイトハウスの執務室で女と遊んでいるような大統領の方がよかったのかもしれない。


「これに比べりゃ、ディズニーランドの行列などたいしたことはない」

(小言航兵衛、2006.8.13)

小言篇へ) (表紙へ戻る