<小言航兵衛>

嫌中論と聖火リレー

 中国は世界中から嫌われている。中国人は地球上どこへ行っても鼻つまみものとして忌避されてきた。このことは中国人みずから「海外排華史」といった書物によって訴えていることでも明らかだ。これは『嫌中論』(黄文雄、徳間書店、2006年7月31日)の説くところである。

 世界の大都市にチャイナタウンとか中華街といった町があるのも、嫌われ者の中国人としてはかたまって暮らすしかなかったからである。しかも中国人は欧米ばかりでなく、アフリカやアジア諸国からも嫌われている。ベトナム人もチベット人もウィグル人も中国人を嫌う。そういえば、余り関係のなさそうなインドネシア人ですら、かつて私があの国で仕事をしていた当時、何かことがあると華僑商店を襲うのが常であった。

 なぜ嫌われるのか。中国人の根底にある中華思想の所為(せい)である。優越意識が強く、唯我独尊だからである。といって優越感をもって他国人を見下しているだけならまだいいのだが、世界中に出かけて行ってさまざまな問題を引き起こす。それも凶悪犯罪が多いから、この上ない迷惑となる。「走出去」とは国外へ逃げ出そうということではなくて、海外雄飛とでもいうべき中国政府のかけ声だが、それに応じて毎年100万人が地球上至るところへ出て行ってトラブルの種を撒き散らす。

 人間ばかりではない。食品、薬品、玩具、衣類といった品物も国外に送り出しては、害毒を撒き散らす。さらに最近は大気汚染、海洋汚染、酸性雨、黄砂などの大規模な自然破壊までやらかすようになった。実は、それ以前、古代から疫病の発生源となってきたのも中国である。近年のSARSや鳥インフエンザに見るように、世界的に流行した疫病はほとんど中国で始まっている。この国があまりに汚く、不衛生だからである。中国は古来あらゆる意味で「疫病の国」なのだ。

 『中国人vs日本人』(早坂隆、ベスト新書、2008年2月20日)によれば、中国の憲法には「中国政治体制の基本は、中国共産党が国家を指導することにある」という意味のことが書いてあるらしい。したがって中国共産党は、日本の自民党や共産党とは異なり、国家のあらゆる権力の最高位に君臨する。

 それゆえ中国共産党中央委員会総書記は中国国家主席となり、中国中央軍事委員会主席であり、中国共産党中央軍事委員会主席である。つまり国家主席は、中国の最高権力を一身に集めた君主なのである。

 このことから見れば、軍隊だって国家のものではなく、中国共産党のものである。普通の国では、軍隊は「国家の軍隊」である。しかし中国では「党の軍隊」にほかならない。日本でいえば「自民党が自衛隊をもっているようなもの」と石平氏が『売国奴』(ビジネス社、2007年10月17日)という本の中で語っている。

 だから中国の軍隊にとって大事なのは、国民ではなくて共産党である。共産党に忠節を尽くすことが、軍の使命なのだ。逆に軍人は共産党を背景として大きな特権を持つことになる。

 数年前のこと、上海で夕食を共にした佐官クラスの中国軍人も、自分で運転してきた高級車を駐車禁止の路上にとめたまま、われわれと2時間ほど食事をした。無論、誰にもとがめられることはない。食事が終わったのち、その立派な車でホテルまで送ってもらったが、どうやら車の登録ナンバーかナンバープレートの色が一目で軍の高官であることが分かるようになっているらしい。したがって高速道路でも長距離を無料で走行できると、鼻高々に話してくれた。それを聞いていて、航兵衛としては内心すっかり嫌になり、上海の夜景は確かにみごとだったが、早々に別れを告げたものである。

 このような軍隊から見れば、チベットの抗議行動を鎮圧するなどは禽獣を蹴散らすようなもの。発砲することもやぶさかではあるまい。もともとチベットなどは南蛮の一部であって、人間とは思っていないのである。

 その中国がこの夏オリンピックを開催することになった。誰が決めたのか、これまた世界中の大迷惑で、まだ競技が始まってもいないうちから走ったり倒れたり、投げたり殴ったり、聖火リレーをめぐってトラブルの続出である。中には血まみれの人や逮捕された人もいて、如何に中国が世界中に迷惑をかけているか、如実に示す事態となった。

 テレビ・ニュースを見ていると、ロンドン市街を中国人の警備員に守られながら聖火をもって走っているランナーですら、中国のチベット弾圧はおかしいと語っている。フランスでも、聖火を迎えるパリ市庁舎には「人権尊重」の横断幕がかかっていた。無論これらはおとなしい抗議であって、聖火を奪い取ろうとしたり、消火剤をぶっかけたり、警官ともみ合ったり、過激な行動をするわけではない。しかし、それだけにひしひしと中国嫌いのほどがうかがえるのである。

 なにしろ今の中国の4分の1が本来のチベット国であった。自治区などというインチキではなくて、堂々たる国家である。そこへ中国が攻め込んできて、領土を奪ったばかりでなく、少なくとも120万人のチベット人を大量虐殺し、寺院を破壊し、チベット語の教育を禁止するなど、民族と文明の抹殺をはかっているのだ。それに比べれば聖火リレーの妨害などは極めて小さな抗議と抵抗にすぎない。これまでは、こんな小さな抗議すら命をかけなくてはできなかったのである。

 むしろロンドン警視庁が聖火を守ろうとするものだから、却って騒ぎが大きくなる。守らなければランナーが危険というかもしれぬが、そのランナーも中国はおかしいと思っているなら、抗議者と同じように「チベットに自由を」とか「中国はチベットから去れ」と書いたたすきやゼッケンをつけて走ればよいだろう。そうすれば抗議者たちから暴行を受けるようなこともなくなるにちがいない。

 最後にもう一度『中国人vs日本人』に戻ると、この本の中に次のようなジョーク、すなわち本音を見つけた。

 学校で先生が生徒に訊いた。「君の母親は誰か」
 生徒は答えた。「はい、わが愛する祖国、中国です」
 「では君の父親は?」「それは良き指導者、共産党です」
 先生は満足げにうなづきながら、さらに訊いた。
 「それでは、君の将来の夢は?」
 生徒は答えた。「はい、僕は孤児になりたいです」

(小言航兵衛、2008.4.8)

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