<小言航兵衛>

アメリカの責務と日本の方策

 

 

 いま日本の命運はアメリカと北朝鮮に握られている、というのが『日本の根本問題』(西尾幹二著、新潮社、2003年3月15日刊)の説くところである。

 なぜなら「軍事意思を欠く日本は、自己決定権をもたない」からだ。この両国のどちらかが、どう考えるかによって、日本のひ弱な平和はたちまちにして瓦礫と化すにちがいない。

「日本人はこの現実をしかと見つめよ……イラク戦争に関しては、アメリカが正義か不正かという議論ばかりが横行している。……北朝鮮のみならず中国の各ミサイルの影響下にある日本は、地球上もっとも深刻な状態にある」

 しかるに小泉首相までが「核問題は直接的には米国と北朝鮮の問題だ」などとノンキな発言をしていて、いっこうに責務を果たそうとしないのはどういうことか。

 では、どうすればいいのか。「寝た子を起こしたのはアメリカである。……『ならず者国家』の排除の声をあげたブッシュ大統領である。いったんパンドラの箱を開けた以上、アメリカには最後まで責任を持って貰わなければ困る」と著者は言う。

 すなわち「アメリカは北朝鮮の核問題を、日本のために無事に解決する義務を負っている。さもなければ日本はNPT(核拡散防止条約)を脱退し、ただちに核ミサイルの開発に乗り出さねばならない。……日本が正常な国家理性をもつ国なら、世界一命中度の高い高性能の弾道ミサイルを開発するのに時間はかからないということを、アメリカ政府とアメリカ国民に告知しておかなくてはならない」

 核保有国には責任がある。NPTによって、自分たち以外には核を持たせないし、持っているかもしれないという疑惑だけでフセイン政権のように壊滅させるのであれば、決して核爆発など起こらぬよう、軍事的にも外交的にも過ちをおかすようなことがあってはならない。

 しかるに、北朝鮮の核問題というパンドラの箱を開けただけで、あとはほったらかしにしておけば、最大の被害をこうむるのは日本である。とすれば、その蓋をするために日本も立ち上がらねばならない。

 むろん立ち上がること自体を主張するのではない。けれども火の粉が降りかかるどころか、核ミサイルが降ってくるというのに、他人事のように脳天気なはぐらかしを言いながら座視していていいのか。

 ここはアメリカと北朝鮮の出方について、いくつかのシナリオを想定し、それぞれについて日本の対処の仕方を考え、必要に応じてアメリカその他の国へ内容を知らせ、条件つきでもいいから同意を取りつけておくべきだろう。

 ゴールデン・ウィークの間に首相を初め、多数の閣僚や議員たちが国外へ出かけていったようだが、まさか物見遊山とお土産だけで戻ってきたのではあるまいね。


疑惑の2人(広島と長崎に落とされた原爆の名前と同じ体型)

 蛇足になるかもしれぬが、昨年9月17日、小泉首相が平壌に行ったとき、わずかに電波に乗った金正日の挨拶の言葉は、通訳が言うような「よくお出でくださいました」という丁寧なものではなかったらしい。本書によれば「おお、お前が日本の首相だな、よく来たな」というぞんざいな言い回しだったという。

 この話が本当かどうか、朝鮮語の分かる外務省の職員は同席していなかったのだろうか。本当だとすれば、日本人はもっと怒らねばならない。

(小言航兵衛、2003.5.7) 

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