<航空史>

ライト兄弟が飛んだ日

 1週間まえの12月17日――いうまでもなくライト兄弟が人類初の動力飛行に成功した日である。109年前、1903年のことであった。

 この地球上で、生物が初めて空を飛ぶようになったのは数億年前の昆虫である。そして、およそ2億年前の翼竜や始祖鳥を経て鳥が生まれた。翼竜は前肢の指の1本が特に発達して皮膚が広がり滑空ができる程度だったし、始祖鳥は羽毛があったように見えるが、骨格からすると飛ぶ力は弱かったらしい。

 人類の飛翔も初めは滑空であった。それを動力飛行に変え、操縦を可能にして、長時間・長距離の飛行を実現したのがライト兄弟である。兄弟は鳥の飛翔に注目し、鳥が翼の先端をひねって体を傾けることによって右や左へ旋回するのを知って、自分たちの飛行機にも同じ構造を取り入れ、本職の自転車の原理から体重を傾けて向きを変えるという飛行機の操縦法を編み出した。

 1903年冬、ライト兄弟はノースカロライナ州の海岸に広がる砂丘へゆき、試作機の実験にとりかかった。そして12月17日、冷たい風の吹くキル・デビル・ヒルにフライヤー号を据えつけた。しかし風が強く、天候も悪くて、兄弟はいったん飛行実験をあきらめ、来年もう一度やってこようかという話し合いまでした。

 その結果、駄目でもともとという気になって挑戦を試み、弟のオービルが12秒間で38mを飛ぶのに成功した。高度は地上わずかに6mだったが、これこそは人類史上初めての操縦可能な動力飛行であった。

 続いて兄のウィルバーが乗り、交互に2度ずつ飛んだ結果、最長1分近く、260mの飛行となった。このときから人の移動手段は大きく変わることになる。

 2年後の1905年10月、ライト兄弟は40kmの長距離を39分間で飛行する。これで飛行機の実用性が実証された。1911年には初めてアメリカ大陸の横断飛行にも成功する。この飛行には84日間を要し、途中70ヵ所に着陸し、燃料を補給した。

 以来、飛行機は急速に発展したが、ライト兄弟は「たわみ翼」の特許をフランスに侵害されたとして訴訟を起こしたり、スミソニアン博物館が兄弟の初飛行を認めなかったり、そのため長期にわたってフライヤー1号機をイギリスに貸し出したり、必ずしも静穏な生涯を送ったわけではない。

 しかし、だからといって、1903年12月17日の偉業は決して損なわれるものではない。今や地球上のすみずみまで飛び交うようになった航空機と、その世界は、ここから始まったのである。

(西川 渉、2012.12.24) 

 

 

【関連頁】

         ライト兄弟初飛行100年(日本航空新聞、2004.2.16)
         ライト兄弟機が展示されるまで(2003.7.26)

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