<小言航兵衛>

気違いに刃物

 

「インチキ選挙で当選したインチキ大統領が、インチキ戦争を仕掛けている。ブッシュよ、恥を知れ」(ドキュメント映画でアカデミー賞を取ったマイケル・ムーア監督)

  

 曾野綾子の本に「怒っている男は、狂人」というレバノンの格言が出てくる。アラブ人は誰もがこの言葉を知っていて、そのうえでブッシュの言動を見ているのだろう。

 日本にも「怒り狂う」という表現があって、怒りは狂気につながる。あげくは「気違いに刃物」ということになり、自分は刃物を振り回しながら、他人(ひと)が刃物を持っているのではないかという強迫観念に取り憑かれ、相手を傷つけてしまう。それがアフガン攻撃であり、イラク戦争であった。

 こんな狂人をアメリカ国民は次もまた大統領に選ぶつもりなのだろうか。まさかとは思うが、マスコミの論調は選挙に勝つだろうという見方の方が強い。もっともマスコミ自体が狂っていることは、アメリカのテレビ人が兵隊といっしょになって、イラクの美術品を盗んできたことでも分かる。正義と報道の名を借りて、こういう連中が世論をあおっているのだ。まさしく戦争は怒りの最たるものであり、怒りは人を狂わせる。 

 こうした狂気の結果、世界はどうなったか。それについては新聞やテレビでイヤというほど聞かされているから、ここで何かを言うつもりはない。ただ世界の航空界はイラク戦争――すなわち第2次湾岸戦争と正体不明の急性肺炎の恐れなどから、旅客が急減した。その影響について、最近のニュースを整理しておこう。

  

 JALグループと全日空は2003年度の収入が1,000億円以上減る見込み。うちJALは4月から半年間の減収が900億円、減益600億円以上になるという

 経営破綻の瀬戸際に立たされたアメリカン航空は、人件費の削減をめぐって労使合意が成立した。そころが、その直後に経営陣が自分たちへの特別待遇を温存していたことが発覚、会長兼CEOが引責辞任を余儀なくされた。労使合意の内容はパイロット、整備士、客室乗務員の給与を15〜23%カット、数千人を一時解雇するというもの。 

 コンチネンタル航空は今年1〜3月期で2.2億ドルの赤字を出した。乗客が減って座席利用率が4.4%減となったうえに、燃料費が63.7%も上がったため。

 デルタ航空は同社の歴史はじまって以来最悪の危機に見舞われている。第1四半期の3か月間だけで4.7億ドル(約560億円)の赤字を出した。これまでにも、9.11テロ以来、同社は従業員を18%減とし、MD-11旅客機を12機引退させている。

 ノースウェスト航空は第1四半期で4.3億円(約5億円)の赤字を出した。当面、回復の見込みはなく、従業員4,900人を減らし、機材20機を減らした。同航空によれば、これは近年第3の激震であるという。第1回は航空の自由化(1978年)に伴う1982〜83年の落ち込み、2回目は第1次湾岸戦争による1992〜93年の落ち込み、そして今回が第2次湾岸戦争による3回目の落ち込みである。

 USエアウェイズは6月末までに、客室乗務員890人を解雇する。同航空は3月末で破産状態から脱出できたが、需要はさらに減っており、新たな従業員の削減が必要になったもの。

 

 ルフトハンザ・ドイツ航空は欧州第3位の航空会社だが、影響は予想外に深刻。そのため地上作業員の勤務時間を短縮し、客室乗務員の勤務時間を短縮し、1割程度の人件費を節約する予定。最近までに長距離用旅客機7機、近距離用31機、リージョナル機17機を使用機材から外した。

 アリタリア航空は第1四半期の収入が6.9%低下した。このため近く、飛行便数を7%減らし、従業員も1,400人ほど減らす。政府与党は経営陣の交替を迫っている。

 

 ボーイング社の第1四半期の引渡し数は71機で、前年同期にくらべて3分の1減となった。受注数はわずか32機にすぎない。

 エアバス社の第1四半期の引渡し数は65機で、昨年同期より7機減となった。エアバス社は今年、300機の生産計画を立てているが、これを減らすことで検討に入った。270〜280機まで減らすのはまだいいとして、250機以下になれば深刻な事態となる。社内ではすでに臨時雇用者の削減、早期退職プログラムの実施、創業時間短縮、下請け契約の排除などの対策を進めている。

 とはいえ、超巨人機A380の開発作業について予定の変更はない。同機は来年末、初飛行するが、日本航空も発注の意向を持つと伝えられる。ただし機数や受領時期は分からない。

 狂気の戦争でうるおった企業もある。パトリオット・ミサイルなどを製造するロッキード・マーチン社は受注残高が過去最高に達した。この1〜3月期の売上高も前年同期比18%増、純利益15%増となった。特に航空関連部門の売上高は57%増という。

 トマホーク巡航ミサイルをつくるレイセオン社も1〜3月期の売上高が前年同期比7%増で、5.8億ドルの赤字が9,500万ドルの黒字に転換した。

 

【あとがき】

 上の文章を書こうとして、キーボードで「きょうじん」と叩いたところ「強靱」とか「凶刃」という文字しか出てこなかった。私の使っているパソコン言語はジャスト・システムのATOK15だが、「狂人」という普通の文字を何故辞書の中に入れないのか。同じく「きちがい」と叩いても「キチ街」という奇妙な文字しかでてこない。「気違い」という文字が登録されていないのだ。

 ATOKの制作者たちは何に遠慮しているのか。日常的な道具に特定の思想を持ちこみ、辞書という中立的な衣をまとって編集もしくは偏集するなんぞは、正面から何かを主張する論文や思想書ならばともかく、小賢しい欠陥商品である。

(小言航兵衛、2003.4.28)

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