ルフトハンザ航空史第１部
ルフトハンザ航空史第１部
戦前の栄光と夢の挫折
ルフトハンザの歴史はドイツ民間航空の歴史であり、ヨーロッパ航空の歴史といっていいかもしれない。地理的にもドイツはヨーロッパの中心部にあって、早くから欧州各地への国際線を開設したからである。そのうえ欧州から遠く南米や中国にも路線網を広げ、第２次世界大戦に敗れるまではヨーロッパ最大のエアラインでもあった。そうしたルフトハンザ・ドイツ航空の足跡をたどってみよう。
鶴 の 誕 生
ルフトハンザの歴史をさかのぼってゆくと、飛行船による初の航空旅客輸送にたどりつく。1910年ツェッペリン飛行船で運航を開始したドイツ航行会社（ＤＥＬＡＧ）が、後にルフトハンザにつながるからである。しかし飛行船の話はまた別の機会に譲るとして、飛行機が使われるようになってからの時代を見てゆくと、ドイツ民間航空史上最も重要な企業のひとつ、ドイツ・ルフト・レーデライ社（ＤＬＲ）にぶつかる。
1917年12月13日に発足した同社は１年余の準備期間を経て、1919年１月８日ドイツ政府から商用航空輸送の免許を取得した。ベルリンからワイマールへの運航がはじまったのは２月５日――第１日目は新聞を輸送し、２日目は郵便、そして５日後の２月10日初めて旅客を輸送した。
使用機はＡＥＧ.Ｊ�兇硲味孱�.Ｃ�垢箸いκＭ嫦曳�機で、どちらも複座というから、パイロット１人に乗客１人という飛行だったにちがいない。しかし、これこそは史上初めての定期的な航空輸送であった。しかも、その機体には鶴のマークが描かれていた。これが今に伝わるルフトハンザの栄光のロゴマークにほかならない。
ＤＬＲの航空路線は、やがてベルリンを中心にドイツ各地へ広がってゆく。３月にはハンブルクへ飛ぶようになり、４月にはハノーバーやヴェーネミュンデ路線もできた。その頃ライプツィッヒで万国博覧会が開催されたため、特別便も仕立てられた。
８月28日には今のＩＡＴＡ（国際航空運送協会）が設立されたが、ＤＬＲはその発起人であり、最初の加盟会社となった。発足当時のメンバーはドイツＤＬＲのほかに、イギリス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーから１社ずつ、合わせて６社しかなかった。
翌1920年、発展をつづけるＤＬＲの路線は国境を越えるようになり、同年８月３日オランダＫＬＭ，デンマークＤＤＬとの間に航空史上初のプール・サービス協定が結んだ。
1921年４月27日、ＤＬＲはエアロ・ユニオンの傘下に入る。エアロ・ユニオンはハンブルグ商船や飛行船メーカーのツェッペリン社といった有力輸送企業から成る事業グループであった。そして1923年、ＤＬＲはドイツ・エアロ・ロイド社に吸収された。
けれども、ＤＬＲが初期の航空界に残した足跡は大きい。それは同社が航空輸送という新しい事業形態をつくり上げたことだった。したがって経営陣はそのままエアロ・ロイドに移行し、後のルフト・ハンザの指揮を執ることになる。
ルフト・ハンザへ発展
ＤＬＲがエアロ・ロイドに変わってから３年間、ドイツ航空界にはいくつもの企業が設立され、離合集散を繰り返した。今ここに詳細を書いているいとまはないが、競争の果てに残ったのはエアロ・ロイドとユンカース空輸の２社であった。といっても両社ともに赤字つづきの経営で、かろうじて政府の補助金で支えられていた。
が、ドイツ政府もいつまで補助金を出しつづけるわけにはいかない。というので1926年、両社の合併が政府から勧告された。そこから誕生したのがルフト・ハンザ航空であった。同社はエアロ・ロイドから鶴のマークを受け継ぎ、ユンカースからは黄色と青色のカラーを受け継いだ。
社名は、今ではルフトハンザと１語で書くが、当時は「ルフト」（空）と「ハンザ」の２語に分かれていた。ハンザとは13世紀から16世紀にかけておこなわれたハンザ同盟に由来するものであろう。欧州各地に進出したドイツ商人が共通の利益を守るために結んだ同盟で、のちに都市間の同盟に発展した。
つまりルフト・ハンザとは「空の交易同盟」にほかならず、誕生までの経緯も同盟や協定の連続であった。その同じ精神が今の「スターアライアンス」につながるのかもしれない。
1926年４月６日、ルフト・ハンザ航空は本格的な運航を開始した。当時の使用機材は２社が合併したせいもあって162機もあった。それだけに機種も多く、その内容は19種類に分かれていた。そこで旧式機や小型機はできるだけ整理して行くことになり、1930年までに10機種27機が整理された。
残った機材のうち80機はユンカース機であった。うち48機は６人乗りのユンカースＦ13、残りは９人乗り３発のユンカースＧ24である。同機は世界初の全金属製の飛行機であった。
ルフト・ハンザはやがて夜間飛行に取り組むようになった。夜間飛行は、エアロ・ロイド社の当時もドイツからストックホルムへ向かうバルチック海越えの区間でおこなわれた。同じくユンカース空輸も、フロートをつけたＡ20水上機でバルチック海を越える試験飛行をしたことがある。
航法は海の灯台を目印にして飛ぶというもので、灯台の職員は頭上を飛行機が通りすぎると、そのことを次の灯台に連絡して安全を確認する仕組みであった。けれども視程の悪いときは灯台も見えにくく、決して安全な仕組みとはいえなかった。
夜間飛行と計器飛行
その頃、米国では郵政省によって飛行経路沿いに航空灯台を設け、その明かりで航空機を誘導する方式が考案された。ドイツでも同じような方法でベルリンからケーニヒスベルクまでユンカースＧ24が飛ぶようになった。1926年５月１日のことである。
この日午前２時、乗員３人と乗客９人が乗ったＧ24はベルリンを飛び立ってケーニヒスベルグへ向かった。初の夜間飛行は街灯のついた道路沿いにおこなわれた。道路には20〜25ｋｍおきに強力な明かりをつけた回転灯火を置き、さらに高い建物や柱の上にネオン・ランプやガス・ビーコンを置いて、パイロットの目印とした。そのうえ飛行機の方にもヘッドライトをつけ、両翼にはマグネシウム・ライトを取りつけた。
夜間飛行の実現は飛行機の稼働時間を増やすことができるので、航空事業にとってはきわめて重要な突破口となった。また、たとえばベルリンからレニングラードまでの行程も、日が暮れたからといって途中で夜明けを待つ必要がなくなり、所要時間も短縮された。当時、鉄道で70時間を要したものが、飛行機は14時間しかかからなかった。
同時に、コクピットの計器も進歩した。そのためパイロットは地上灯火ばかりでなく、計器も頼りにしながら、両方を見くらべて飛ぶようになった。これで、いくらか夜間飛行の安全性が増した。
1927年にはユンカースＧ24で本格的な計器飛行がおこなわれるようになった。そして1929年パイロットに計器飛行証明が義務づけられるようになり、この証明がなければ夜間飛行はできないと定められた。
それより先の1926年、大型旅客機に無線機が搭載され、地上の管制官との直接交信が可能となった。これにより、たとえば霧の中などで空港に着陸しようとする場合、管制官は近づいてくる飛行機のエンジン音を聴いて、飛行方角を無線で指示し、誘導できるようになった。
ユーラシア大陸を越えて
拡大をつづけるルフト・ハンザの航空路線は、やがて欧州を離れて南米やアジアをもめざしはじめる。アジアへは1926年、２機のユンカースＧ24で試験飛行がおこなわれた。両機は７月23日ベルリンを飛び立ち、10,000ｋｍを17区間に分けて飛行し、８月30日北京に到着した。
飛行経路はベルリンからケーニヒスベルクを経て、モスクワ、カザン、オムスク、ノボシミルスク、イルクーツク、満州、ハルビンなどを経由するものだった。しかし当時は正確な地図もなく、気象予報もなく、予備品の貯蔵もなく、中国の飛行許可もないままに飛ばざるをえなかった。
途中、ウラル山麓のクラスノウフィムスクに着陸したときは、滑走路が短かすぎて離陸できなくなった。あわてて近隣の村からスコップやつるはしを持つ農民を集め、滑走路を300ｍほど延長して、かろうじて離陸に成功した。しかしウラル山脈を越えてイルクーツクに到着すると、今度はバイカル湖の濃霧のために２週間も足止めを食った。
さらに、飛行許可の出ない蒙古は遠回りをしなければならず、バイカル地方の大森林の上を何時間も飛びつづけた。ここでエンジン・トラブルでも起これば、生きて還ることはまず不可能と思われた。こうした難行苦行の果てに、試験機は１か月と１週間かかって、ようやく北京に到着した。２機のＧ24が最後まで無事に飛べたのは奇蹟か幸運としかいいようがない。しかも、両機は再びそろってベルリンに帰着したのである。
この試験飛行にもとづいて、ドイツ・ルフト・ハンザは1930年２月21日、中国政府と合意に達し、ユーラシア航空と呼ばれる合弁会社を設立、欧州〜アジア間の郵便輸送に乗り出した。合弁会社の株式は３分の２が中国側であったが、ルフト・ハンザは技術を提供し、実質的には双方対等の合弁であった。
運航開始は1931年５月31日。実際の飛行は同じ機体が１万キロの長距離を飛ぶわけではなく、ベルリンからモスクワまでは1921年ドイツとソ連との間につくられたデルルフト航空が郵便物を輸送し、モスクワからイルクーツクまではソ連のドブロロート航空が飛び、そこから満州の国境までシベリア横断鉄道で運び、最後のマンチューリから北京と上海までの区間をユーラシア航空が飛ぶという路線構造であった。
使用機はユンカースＷ33。乗客４人乗りのユンカースＦ13旅客機の貨物型で1926年に完成した。おそらくは史上初の貨物専用機といってよいであろう。大きさはＦ13と変わらないが、コクピットを胴体の中に埋めこむようにして、機体上部の膨らみを減らし、全体が流線型にととのった形状となっている。
エンジンはノーム・ジュピター�困如⊇侘�420ｈｐ。Ｆ13の280ｈｐに対して２倍近くに増加、搭載量が大きくなった。貨物機としては胴体の窓がないが、のちに乗客４人乗りの旅客機としても使われるようになって、窓がついた。製造機数は約200機。
ところが、ユーラシア航空のＷ33は運航開始から１か月余りのち、マンチューリから南へ150ｋｍほどの蒙古国境付近を飛んでいたとき、地上から蒙古軍の攻撃を受けた。そのため副操縦士が負傷して不時着し、２人のパイロットは捕虜になり、スパイの疑いで拷問を受けた。懸命の外交交渉によって２か月後に釈放されたが、この飛行経路は危険ということになった。
そこでソ連領と中国領が接する中国北西部の国境を越える経路が考案され、1931年12月から32年１月にかけて、Ｗ33による試験飛行がおこなわれた。その後も何度か試験飛行が繰り返されたが、実用に至らぬまま、1933になってソ連と中国との関係が悪化し、計画は流れてしまった。
このためベルリンと北京を直接結ぶ路線はなくなったけれども、中国内部の航空網はユーラシア航空の名のもとに拡大していった。使用機はドイツから持ち込んだ多数のユンカース機である。しかし、やがて日本軍が中国大陸の東側に進出し、民間航空はしばしば危険にさらされるようになった。1937年には蘆溝橋事件を契機として日中戦争が勃発、39年にはドイツ軍がポーランドに攻め込んで、世界中に第２次大戦の暗雲が広がりはじめた。
南大西洋線の開拓
ルフト・ハンザ航空は、中国航空路の開拓に乗り出す一方、南米路線にも取り組んだ。実際の郵便輸送がおこなわれたのは中国への飛行よりも早く、1930年３月22日のことである。
これはベルリンとブラジルのリオデジャネイロを結ぶ郵便飛行で、ドルニエ・ワール飛行艇を使い、リオデジャネイロからフェルナンド・デ・ノローニャ諸島へ飛び、そこでハンブルク商船の船に積み替えて南大西洋を渡り、カナリア諸島のラスパルマスで再び飛行機に積み替え、バルセロナ、シュツットガルトを経由してベルリンへ飛んだものである。
この郵便飛行は中国への飛行と違って３年ほど続き、さらに大胆な実験につながった。というのは1933年６月、大型船にカタパルトを取りつけ、そこからワール飛行艇を発射したのである。しかも飛行艇は海面上10ｍ以下の超低空飛行によって地面効果（もしくは水面効果というべきか）を利用し、速度を15km/hほど増加するという方法を取った。
つまり大西洋上、ワール機の燃料が尽きる付近にカタパルトのついた補給船を浮かべ、沿岸から飛来したワール機が船のそばに着水するとクレーンで甲板に吊り上げ、燃料を補給してカタパルトで打ち出すのである。これで水面を滑走して離陸する必要がなくなり、郵便や燃料の搭載量が増え、船舶を使わずに航空機だけで大洋横断が可能となって、郵便輸送の所要時間はいちじるしく短縮された。
こうして1935年３月30日、ベルリンからの郵便物は３日でリオへ着き、それに半日足してブエノスアイレスに届くようになった。そのうえ10月にはチリのサンチアゴへも飛びはじめ、ベルリンの郵便物は４日後には太平洋岸にも配達されるようになったのである。
こうした大洋横断の郵便輸送に使われたドルニエ・ワール（くじら）は1922年11月６日に初飛行した大型飛行艇である。以来14年間に約300機が製造された。うち半数はイタリア製だが、これは第１次大戦後ヴェルサイユ条約によってドイツの航空機製造が制約されていたためである。
ワールは、しかし、年月がたつにつれて改良進歩した。胴体が長くなったスーパーワールは出力が強化され、客席が標準型の10席に対し19席まで増加した。エンジンはロールスロイス・コンドル（650ｈｐ）が４基だったが、後にブリストル・ジュピター（480ｈｐ）４基に換装された。
Ｊｕ52／３ｍとＤＣ-３
1930年代の終わり頃、米国ではダグラスＤＣ-３が多くのエアラインで使われ、一種の標準的な旅客機となっていた。それに対してヨーロッパではユンカースＪｕ52／３ｍが普及した。
ユンカースＪｕ52は1930年11月13日に初飛行した。最初は単発の貨物機として設計されたもので、約４トンのペイロードがあった。しかし当時の世界的な経済不況のために、貨物輸送の需要が少なく、売れたのは７機だけだった。
折からルフトハンザは旧式機を取り替える時期に当たっていた。そこでユンカース社から、Ｊｕ52単発貨物機を３発旅客機に改めたＪｕ52／３ｍの提案を受けると、これを導入することに決めた。３ｍの枝番をつけたのは、いうまでもなくモートル（発動機）が３基であることをあらわす。１基あたりの出力は750ｈｐであった。
３発にしたのは高いアルプス山脈を容易に越えられるためである。しかし機体の大きさはほとんど変えず、客席は17席であった。巡航速度は240km/h。この新しい飛行機で、ルフトハンザはドイツの空はもとより、ヨーロッパ全域に信頼の翼を広げて行った。
第２次世界大戦のはじまった頃には、ルフトハンザの145機の保有機のうち80機がＪｕ52／３ｍであった。ほかにルフトハンザは航空省からも多数の機材を借り入れ、総数200機ほどの航空機を運航していた。
Ｊｕ52／３ｍは、デビューが1932年４月。ヨーロッパで最も信頼性が高く、最も多くつくられた旅客機となった。それというのも計器飛行が可能で、離着陸距離が短く、どんな小さな飛行場でも、フットボールのグランドですら発着できたためである。これは着陸フラップの先駆けともいうべき「ユンカース式補助フラップ」を装備していて、着陸速度を95km/hまで落とすことが可能だったからである。のちにＪｕ52／３ｍは第２次大戦中もこの特徴を生かし、戦術輸送機として兵員輸送や患者搬送に使われ、落下傘部隊の降下飛行にも従事した。
余談ながら1930年代後半から40年代前半にかけて覇を競いあったＪｕ52／３ｍとＤＣ-３をくらべると別表の通りとなる。基本的には両機とも同じくらいの大きさだが、ＤＣ-３の方がエンジン出力が３割ほど大きいために速度がはやく、最大離陸重量が大きく、搭載量も大きい。だが、どちらも信頼性が高く、旅客機として数多く使われ、軍用機としても数々の武勲を挙げた。輸送機としては、ＤＣ-３が史上最高の製造機数を誇るが、Ｊｕ52／３ｍはそれに次ぐ２番目の位置を占める。
だが両機には根本的な違いがあった。技術面における時代の相異である。Ｊｕ52／３ｍは基本的に1919年のユンカースＦ13と変わらず、機体を大きくして発動機の数を増やし、主翼の設計を進歩させたものであった。それに対してＤＣ-３は、近代的な旅客機のはじまりを象徴するもので、たとえば主翼は、ユンカース機がスパー・アンド・リブ構造から成っていたのに対し、ダグラス機は複数の箱桁をもった応力外皮構造で出来ていた。また胴体はユンカースの旧い矩形フレームに対し、ＤＣ-３はモノコック構造になって、引っ込み脚がつくなど、さまざまな近代性をそなえていた。
その意味でＪｕ52／３ｍの波板は旧い時代の終わりを示すものであろう。機体全体の外形も、ＤＣ-３の方が将来性のある流線型であった。けれどもヨーロッパで花開いたユンカース機はＤＣ-３よりも４年早く誕生し、７年後まで製造が続いたのである。
Ｊｕ52／３ｍの総生産数は4,835機。うち2,804機がドイツ空軍に採用された。ルフトハンザでは1930年代の主力機として約135機が使われた。ほかに第２次大戦後もフランスやスペインで生産が続き、1952年までＣＡＳＡ352／３ｍとして製造された。そしてジェット時代になってからも、1960年代末頃まで世界各地で定期路線を飛びつづけた。今も、その姿はいくつかの航空博物館で見ることができるが、有名なのはワシントンのスミソニアン博物館に展示されている機体で、ルフトハンザ航空が寄贈したものである。
(Ju52)
ユンカースＪｕ52／３ｍとＤＣ-３の対比
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初飛行 |
1932年４月 |
1935年12月17日 |
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定期路線就航 |
1932年５月（ルフトハンザ） |
1936年６月25日 |
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寸 度 |
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全 長 |
18.9ｍ |
19.7ｍ |
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主翼スパン |
29.3ｍ |
29.0ｍ |
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客席数 |
15〜17席 |
21〜28席 |
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エンジン |
ＢＭＷホーネット |
Ｐ＆Ｗツインワスプ |
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出 力 |
600ｈｐ×３ |
1,200ｈｐ×２ |
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最大離陸重量 |
9,200ｋｇ |
11,430ｋｇ |
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巡航速度 |
240��/h |
290��/h |
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滑走路長 |
760ｍ |
920ｍ |
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航続距離 |
800ｋｍ |
1,250ｋｍ |
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製造機数 |
4,835機 |
13,750機 |
ルフトハンザへ社名変更
Ｊｕ52／３ｍがすぐれていたとはいえ、ユンカース社もいたずらに旧い技術に固執していたわけではない。1934年に就航したＪｕ60小型単発機は、胴体が波板ではなく、平板のモノコック構造になっていた。ただし主翼はまだ波板だったが、36年に完成したＪｕ160は主翼も平板に変わった。こうして旧時代のユンカースＦ13やＷ34は退役に向かい、30年代末までに全機消えていった。
そうした近代化の波に乗って、ドイツ・ルフト・ハンザは1933年６月30日、社名を「ドイツ・ルフトハンザ」に変更した。そして30年代後半、ルフトハンザは圧倒的なＪｕ52／３ｍと新しい機材によって、最も近代的な、最も速いエアラインとしてヨーロッパ航空界に君臨した。
その新機種の中には、ハインケルＨｅ111、Ｈｅ116、Ｊｕ90、フォッケ・ウルフＦｗ200コンドルなどがある。このうちＨｅ111は1936年に就航した双発機で、旅客10人乗り。全金属製モノコック応力外皮構造の胴体に可変ピッチ・プロペラをつけ、引込み脚をもっていた。また38年に就航したＨｅ116は長距離用４発機で、南大西洋路線などに使われ、1939年には10,000ｋｍの長距離飛行記録をつくった。そしてＪｕ90は1938年ルフトハンザに導入された４発機で、乗客40人乗りという巨人機であった。
Ｆｗ200コンドルは1937年に初飛行した４発長距離輸送機である。旅客機としては26席。設計者のクルト・タンクは超長距離の飛行性能をめざして本機をつくり、1938年５月ルフトハンザは、このコンドルとＪｕ90の両方を受け取って、定期便に使いはじめた。
それから間もなく、ルフトハンザはベルリンからニューヨークまでコンドル機の無着陸飛行に成功した。1938年８月10日のことである。距離は5,150ｋｍ、所要時間24時間36分。同機は３日後ベルリンへ引っ返し、８月14日に大歓迎を受けながら無事帰着した。
この大胆かつ劇的な飛行によって、もはや飛行船や飛行艇を使わなくても大洋横断飛行が可能であることが実証された。同年11月には東京への長距離飛行も試みられた。11月28日にベルリンを発ったコンドルは、途中バスラ、カラチ、ハノイの３か所で給油しただけで、およそ48時間かかって11月30日東京へ飛来した。そのうち実飛行時間は42時間18分であった。
こうした画期的な飛行能力によって、コンドルはヨーロッパ諸国はもとより、中国のユーラシア航空や日本からも注文を受けた。しかし、それから間もなく戦争がはじまって、５機がルフトハンザの定期路線に就航したものの、あとは10機ほど生産されてドイツ空軍の偵察機として使われただけとなった。もし戦争がなければ、フォッケウルフ・コンドルはドイツ航空技術の実力を発揮して、ルフトハンザを初め、世界主要エアラインの長距離用旅客機として世界中を席巻したにちがいない。
戦塵についえ去った夢
その当時、ルフトハンザ航空の路線網は欧州圏内の主要都市はもとより、西アフリカから南大西洋を越えて南米に及び、大西洋岸のブラジル、アルゼンチンを経由して、太平洋岸のチリやペルーに達していた。また東方へは中近東からインドを経由してバンコクに達し、中国では北京や上海を中心に西安やハノイへも飛んでいた。そしてベルリンからニューヨークへの北大西洋線を計画し、1940年代初めには世界最大の航空ネットワークを完成するという夢の実現に向かっていたのである。
だが、その少し前、ヒトラーは1939年９月１日未明、ポーランドへ進撃を開始した。９月３日にはそれに対抗する英仏両国がドイツに宣戦を布告して第２次世界大戦がはじまる。
その頃150機近くあったルフトハンザの航空機は飛行性能の良いものから軍に徴用され、まずハインケルＨｅ111やユンカースＪｕ86が持って行かれた。そして３年後には47機に減り、旧式機ばかりが残った。ルフトハンザの路線網は急速に縮小したが、それでも３年後の時点では、まだ国内線に加えて、イタリア、スイス、スペイン、ノルウェー、チェコなど友好国や中立国に向かう国際線も飛んでいた。
しかし1945年４月、ナチスの支配した第３帝国は東西両面から攻めたてられ、命運は旦夕にせまった。その最後の日を２週間後にひかえ、ルフトハンザはまだ飛んでいた。が、国内の飛行場ですら不意に敵があらわれて着陸を断念したり、敵の戦闘機に遭遇して追いかけられたりするような事態が頻発した。
４月25日、アメリカとソ連の軍隊がベルリンのすぐ南まで攻めこんできた。30日にはミュンヘンがアメリカ軍に占領された。ルフトハンザ機はオーストリアに逃げたり、地上で破壊されたりした。
ベルリンから撤退したのは４月22〜23日であった。落ち着き先はバルチック海に臨む小さな町ヴェーネミュンデだが、ここからも直ぐに追い立てられ、デンマークとの国境の町、フレンスブルクまで追い詰められた。
その頃、ベルリンではすでにヒトラーが自殺を遂げていた。４月30日のことである。しかし戦闘は続き、ルフトハンザも飛び続けた。残った機体は旧いユンカースＪｕ52／３ｍなど、わずかに６機であった。
最後の飛行は５月３日、フレンスベルクから北へ、ノルウェーのオスロまでの定期便であった。わずか５分間の遅れで、定刻通りにオスロに着いた同機は、２日後の５月５日フレンスベルクに戻った。５月６日カナダ軍がフレンスベルクに進攻してきた。翌５月７日、ドイツ全軍が連合軍の前に降伏した。
かくて戦前のヨーロッパで最大のエアラインを誇ったルフトハンザは、鶴のマークで世界の空を覆いつくすという夢を残したまま、翼を奪われたのである。（第２部へつづく）
（西川渉、『エアワールド』誌、2000年９月号掲載）
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