悪口雑言の政治家論

  

 

 先日の国会で、非拘束名簿方式の選挙法改正決議を阻止できなかったからといって、議場の外でめそめそ泣いている議員がいた。大の男がよくもまあ人前で泣くものかと呆れたが、こういう女々しい連中だからこそ阻止できなかったのである。男なら人前で涙を見せないのはもちろん、議論でも腕力でも最後まで闘うべきで、勝って嬉し泣きをするのはまあいいが、負けて泣くとは何事か。

 これを称して女のくさったのと言いたいところだが、近ごろはシドニーオリンピックでも実証されたように、女の方が強くなったから下手なことは言えない。とはいえ、女だから誰でもいいというわけではなく、「政治理念は訊かないでください」といって当選した小渕恵三の娘優子や、土井たか子の手下福島瑞穂とか辻本清美とかは「国会で何をしているのかまったくわからない。意見を言わせれば、……ヒステリーを起こして食ってかかる」と書いているのが『田中真紀子総理で日本はこうなる』(渡辺正次郎著、日本文芸社、平成12年10月刊)である。

 まことに、この本は悪口雑言の政治家論である。まず「馬鹿な派閥政治をやっているから、どうしようもない者が総理大臣になるんです」という田中真紀子の言葉が引用される。そのどうしようもない歴代首相について、本書は「ここ何人かの総理大臣は……なべてカリスマ性もリーダーシップもなく、華もないだけでなく、その辺のおっさんばかりだった」と受け、次のような評価を下す。

中曽根康弘

今日の金狂い日本、無責任日本、金になるなら親も子も殺し合う、神も仏もない道徳なき国家をつくった張本人。厚顔無恥そのもので、生涯現役などと議員バッジを外そうともしない

竹下 登

日本の砒素。まあまあの話合いで成る談合政治をはびこらせた。「元祖バラまき総理。本人は経済の竹下を自認していたが、全然経済をわかっていなかった」「歴史に残らない人、名前を覚える必要もない人」

宇野宗佑

(評価の対象にもならないのか、全く触れていない)

海部俊樹

最低。担ぐ神輿(みこし)は軽くてパーがいいとおちょくられ放し

宮沢喜一

優柔不断で何もできず、歴史上かつてなかった大不況の大本。決断力のなさ、リーダーシップのなさ

細川護煕

(宇野と同様、評価の外らしい)

羽田 孜

間違って総理になったが、どうにもならない。人の恩を恩とも思わぬ。「多弁にして空疎。……調子のいい人ですよ」「器用でまめだが、無責任、無節操。……首相をやってはいけない人です」

村山富市

青天の霹靂で野党から総理になったが、……わからないことだらけで疲れ果てたと思う

橋本龍太郎

典型的利己主義者。傲慢だけで政治を知らない。錯覚男で、自分の家柄が良いと勘違いしているところがあり、他の議員を見下げてしまう。何ひとつ実績の残せない総理で終わった

小渕恵三

 

無能。竹下登の金魚の糞といわれながら、分もわきまえず総理になった。「誰かが何かを言えばそのまま意見を取り入れる。何でもパクッと食べてしまう。パックン総理ですね」「豆大福みたいな人」

森 喜朗

 

馬鹿。「野中だかオナカだかモナカだか知らないけど、あのおっちゃんが出てきて……『森くんが総理になりました』と言ったときにですね、あっ、これは八百長と思いましたよ」「もともとたいしたことない。あの程度の人間だと思っていましたけど、あーんげ、いつまでもバカ言ってる人だとは思わなかった」

 以上の評価のうち、カギ括弧の中は田中真紀子の言葉である。首相、すなわち日本を代表するお歴々に対して、こんな悪態をついていいのか。言い過ぎではないかと思うが、本書は「よくもまあ、ろくでもない総理が続いたもの」と続ける。「いてもいなくても代わり映えがしない、……能力もない連中でしかなかった」と。

 2年前に読んだ『総理の通信簿』(細川隆一郎著)も歴代総理の功罪を論じたものだが、ここまで悪しざまには書いてなかった。

 『田中真紀子総理……』の評言が本当かどうかは知らない。けれども長年政治家の秘書をつとめて内部事情に詳しく、本人についてもよく知っている政治評論家が言うのだから仕方がない。情けない話だが、こういう政治家に選挙の票を投じたわれわれ国民こそ大いに反省すべきであろう。

 

 さらに本書は、首相ではないけれども、昨今の実力者とみなされる政治家の面々についても次のような悪評を呈する。

野中広務

いつの間に実力者になったのか。もともと田中派の竹下登べったりの雑兵だったはず。過去、これだけ評判の悪い幹事長は野中ただ一人である。何かというと辞めたい、辞めたいというが、辞めたためしがない。何か理由をつけて引き延ばすのが実に得意。

鈴木宗男

知性、品性なく、アホの坂田似。野中の一番の側近――というよりも弱い者いじめの岡っ引きを思わせる。落選させたいナンバーワン。いずれ野中幹事長のアキレス腱になる。

加藤紘一

はっきり申し上げて、ひ弱である。優柔不断を感じさせる。

山崎 拓

勢いがない。順番を待っている間に、若手が追い越していく。

小泉純一郎

一本気過ぎて幅が狭く、奥行きがなくてせせこましい。

河野洋平

典型的な優柔不断。決断力のなさ。

亀井静香

顔も荒々しいが、やること為すこと実に荒々しい。そのうえ粗雑である。口が軽すぎる。最も悪いところは気に食わない相手を「パク(逮捕)ってしまえ」とすぐに警察用語を使う。田中真紀子に「人相の悪い人は向こうに行ってよ」と言われた。

鳩山由起夫

カリスマ性がまるでない。リーダーシップがまるでない。セックスアッピールがまるでない。演説に説得力がまるでない。ないない尽くしである。

鳩山邦夫

お粗末極まる。体型が太り過ぎで見苦しい。自分の食欲を律することができない結果である。精神力が弱いからだ。

菅 直人

自己チュー(自己中心)。人の忠告を極端に嫌う。短気、血が上りやすい。血が上ると周囲が見えなくなる。

 このように二番手も惨憺たる状況だから、永田町には著者の考えるような総理の器たるもの誰もいなくなる。そこで、いよいよ本書の主題となるわけだが、「もう、無責任な男連中に任せておけない。ここは強い母親が出るべき。そういう考えが芽生え、そこに強い母親である田中真紀子が登場したのだ」 

 具体的詳細は本書を読んでいただくのがいいだろう。

(小言航兵衛、2000.10.16)

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