<ADAC Luftrettung>

命のための時間との闘い

 

 去る10月8〜10日の3日間、千葉県木更津のかずさアカデミアホールで、日本航空医療学会総会と学術集会が開催された。このときドイツADAC傘下にある航空救助会社のスザンヌ・マツケアール代表取締役に講演をして貰うことになっていたが、事情があって中止となった。けれどもマツケアールさんからは、あらかじめ講演の要旨が届いていたので、以下に要約を掲載しておきたい。演題は「命のための時間との闘い」"Flying against Time - for Life!"となっている。なお、上図はマツケアールさんからいただいたクリスマス・カードの絵である。

(西川 渉、2012.11.24)


マツケアールさん

 ADACは会員数1,800万人を数える全ドイツ自動車クラブで、その傘下にある救急事業部門は、非営利法人としてヘリコプターによる救急医療サービスに当たっている。この事業は、私の前任者ゲアハルト・クグラー氏がADAC会長フランツ・シュタットラー氏と共に1970年に創設したもので、40年余を経た今では全国的なヘリコプター救急医療ネットワークに発展、ドイツ全土に79ヵ所のヘリコプター拠点が配備され、日常の救急医療サービスにあたっている。

 ドイツではすべての救急ヘリコプターを旅行者の守護聖人に因んで「クリストフ」と呼び、年間およそ10万回の出動任務をこなしている。このうちADACの拠点は35ヵ所にあり、予備機を含む50機のヘリコプターが年間5万回の任務を遂行している。

 ADACの理念は「安全第一」"Safety First"である。ここにいう安全とは飛行の安全ばかりでなく、患者の安全をも意味する。それゆえパイロットや医療クルーの採用条件はきわめて厳格で、入社後の訓練も厳しく、これらが合わさって飛行と患者の安全が維持されている。

 この訓練のために2010年、ADAC HEMSアカデミーが設立された。パイロットや運航管理者などの運航クルーと、フライト・ドクター、ナース、パラメディックなどの医療クルーを訓練するための施設で、ヘリコプター救急訓練施設としてはドイツで最初のものである。ここで運航クルーと医療クルーが一体となって訓練を受けることにより、両者の間には円滑なコミュニケーションが可能となる。他方、機体整備が安全を維持する基盤であることはいうまでもない。

 ADAC救急事業部は長年にわたってBK117ヘリコプターを使ってきた。その平均使用年数は今や28年に達したため、この2年間、新しい機種を4種類の中から選定する作業を進めてきた。その経過と結果についても、お話することになるであろう。

 最後に、ヘリコプター救急の将来に関し、わたし個人の意見を申し述べたい。たとえば夜間の現場救急に関する問題である。夜間飛行は現場着陸に危険を伴うことから、ドイツではごくわずかしかおこなわれてこなかった。しかし近年は増加の傾向にあり、この新しいサービスをどのような形で始めるか。暗視ゴーグル(NVG)の着用を含めて、いかにして、いかなる場面で、いかなる条件の下に実行に移すか、などについてお話したい。

(山野 豊訳) 

 

【関連頁】
   ドイツ・ヘリコプター救急の近況(2012.6.19)

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