ヘリコプター需要をつぶした大蔵省

 

  日本ヘリコプタ技術協会のウェブサイトに掲載された「ヘリコプター工業界の動向と将来予測」(第1部第2部)には表1〜2および表3〜4の4つの表がついている。これらの表を見ているとちょっとしたことに気がつく。 

 まず4つの表をひとまとめにすると次表のようになる。 

生産機数(構成比)

生産金額(構成比)

単   価

実 績

(5年間/1995〜99年)

軍用機

1,675機(31%)

168億ドル(73%)

1,001万ドル/機

民間機

3,759機(69%)

63億ドル(27%)

167万ドル/機

小計

5,434機(100%)

231億ドル(100%)

424万ドル/機

予 測

(10年間/2000〜09年)

軍用機

3,639機(31%)

494億ドル(71%)

1,358万ドル/機

民間機

7,943機(69%)

206億ドル(29%)

259万ドル/機

小計

11,582機(100%)

700億ドル(100%)

604万ドル/機

 この表から言えるのは、第1に世界のヘリコプター工業界が好調を取り戻してきたということであろう。過去5年間の実績と向こう10年間の見通しをくらべて、機数でも金額でも今後増加する傾向を見せている。

 第2に1機あたりの単価も軍・民ともに実績よりも予測の方が高い。軍用機は35%増、民間機は55%増になる。値段の上がることは良いことか悪いことか一概には言えないが、一般的傾向としては機材が大きくなり、技術的な内容が充実するためであろう。

 第3に実績も予測も、機数と金額の関係が軍用機と民間機で逆転している。すなわち機数は軍・民の関係が3対7で、民間機が多い。けれども金額は7対3になっていて、軍用機による収入が大きくなる。それだけ軍用機の単価が高いわけで、平均すれば民間機の5.2倍である。しかも軍用機はまとまった機数が発注されるから、どのメーカーも軍用機の開発や売りこみに目が向くのは当然であろう。 

  ところで、もう一度もとの表1に戻っていただきたい。民間ヘリコプターの生産機数を示すものだが、1990年と91年が飛び抜けて多い。これは日本のバブル経済の影響ではないかと思われる。あの頃、日本は経済の好調によって利益の上がった企業が(脱税ではなくて)節税の目的もあり、多くの企業がヘリコプターを購入した。世界最大のヘリコプター輸入国となって、どんどん買い込んだ。民間ヘリコプターの登録機数も最大1,201機に達し、固定翼機よりも多くなった。

 固定翼機よりもヘリコプターの方が多いなどという国は世界中にないはずで、それが何年もたたないうちにつぶれたのは、バブル経済の崩壊と同時に、大蔵省がヘリコプターの償却年限を2年から5年に延ばしたためである。それだけ節税効果がなくなった。

 大蔵省がバブルつぶしに躍起となり、結果として大不況を招き、日本経済がいまだに立ち直れないことはいうまでもないが、彼らは土地や不動産の取引きに関する税制に手を出したばかりでなく、わずかな増税をはかってヘリコプターにも手をつけた。その結果、ヘリコプターを持ちきれなくなった企業は折角買い込んだヘリコプターを売りに出した。税収の増加どころか、税源がなくなってしまったのである。あの頃1990年代なかば、日本は世界最大のヘリコプター輸出国といわれて、世界中の嗤いものになった。

 現在のヘリコプター登録機数は約900機で4分の3まで落ちこんだ。警察や防災ヘリコプターの増加によって、ある程度の水準を保っているが、純民間ヘリコプターは減ったままである。言い換えれば、大蔵省は民間企業にヘリコプターなどという「贅沢品」は持たせないようにして、行政機関に必ずしも充分活用されていないヘリコプターを持たせるという奇妙な施策を進めてきたのである。

 国民――すなわち企業や個人の金を取り上げて、それを政府が使ったり再配分するといった統制経済や計画経済がうまくゆかぬことは、ソ連を初めとする社会主義諸国の経済破綻で明らかになった。にもかかわらず日本政府は、資本主義の看板を掲げながら、未だに社会主義的な経済手法をやめようとしない。

 国民の贅沢を抑えれば景気の悪くなることは江戸の昔から決まっている。ヘリコプターを贅沢品扱いしたあげく、その機数が減ったままで景気の良くなるはずがない。税法の付表を元に戻すだけで、無論バブル当時のようなわけにはゆかぬにしても、何らかの可能性が出てくるのではないか。

 世界の好景気を横目で見ながら、日本はいつまで不景気をつづけるつもりか。

(小言航兵衛、2000.8.31)

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