<モナリザの微笑>

モデルは誰か

 半藤一利『漱石俳句探偵帖』(角川書店、平成11年刊)の中に、モナリザの微笑は気味が悪いという一節がある。

 漱石の「モナリサ」という短編の主人公がこの絵を見て「薄い唇が療法の端で少し反り返って、その反り返った所にちょっとくぼみをみせている。結んだ口をこれから開けようとする様にもとれる。又は開いた口をわざと、閉じたようにもとれる」。だんだんに変な気持ちになってきて高い金を出して買ってきた絵を5銭でくず屋に売り払ってしまう話である。

 世界の恋人の如くにいわれているモナリザに対し、漱石はわざわざ異を唱えているわけだが、それを受けて今度は著者が、この絵のモデルはレオナルド・ダ・ビンチ自身であったという説を紹介している。ベル研究所の発見で、ダビンチの髭のある自画像を裏返しにしてモナリザに重ねてみると、顔の輪郭、目、鼻の位置、髪の生え際、すべてが一致したという。

 漱石がモナリザを気味が悪いと感じたのもそのせいだったのか。コンピューターのない時代に「早くも見破っていたあたり、漱石先生はやっぱりただものではない」というのが著者の結論である。 

 下に、2つの絵を並べおきますので、試してみてください。

私がやってみた結果は次のとおりです。

 まず2枚の図の顔を同じ大きさにして、レオナルドの顔の向きを左右反転させる。そしてレオナルドの画像を透明化して、それをモナリザの顔に重ねる。それが次の図です。

 いささか強引に重ねてしまったので、本当はもっと何か科学的なやり方でなければ、冒頭の論文の証明にはならないかと思います。

 漱石は、上の本によれば、「御曹子女に化けて朧月」という句を詠んで、それを『草枕』の中に書き付けています。

(西川 渉、2003.8.27)

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