<三菱航空機>

MRJのチャンス

 

 英「フライト・インターナショナル」誌の先週号が、ロシアの「スーパージェットは事故を起こしたことで、デモ飛行以上の宣伝効果を挙げた」と、イギリス人らしい皮肉な書き方をしている。

 事故は、この飛行機がロシアのいうように最高度の技術から生まれた近代的な航空機であったとすれば、パイロットや関係者の人的要素が原因だったろうし、そうでなければ航空機そのものに欠陥があったことになる。

 いずれにせよ、競って注文を出しつつあったインドネシアのいくつかの航空会社が、熱帯の地で凍りついたようになり、いっせいに後じさりをしたことは確かである。

 本頁「スーパージェットの事故」(2012.5.22)で書いたように、ロシアのスホーイ・スーパージェット100はインドネシアでデモンストレーション飛行中に事故を起こした。このことは、わが三菱リージョナルジェットMRJにとって、ひとつのチャンスではないかと思われる。

 ところがMRJの方も、今年2月のシンガポール航空ショーで開発日程の遅れを公表しなければならないような事態にぶつかっている。おそらくは1年以上遅れるもようで、当初の日程では2012年第2四半期というから、まさに今頃初飛行していたはずだが、これが2013年秋までずれこむらしい。したがって引渡し開始の日程も当初の2014年初頭から2015年夏以降になる。飛行試験の期間は1年半を想定している。

 遅延理由のひとつは技術的な問題で、部品の製造がうまくいっていないとか、操縦系統に問題があるとか、三菱の明確な説明がないだけにいろんな憶測が聞こえてくる。それより前、当初は主翼を複合材でつくる計画だったが、問題が出て取りやめたこともある。

 もうひとつの遅延理由は、型式証明取得の手続きにあたって、予想外に大量の書類作成を航空当局から要求されたためという。さすがに天下の三菱で、役所に責任を押しつけるつもりらしい。

 MRJの設計仕様は客席数78席と92席の2種類だが、最初に飛ぶのは92席のMRJ90で、原型5機を使用して試験飛行をおこなう。また将来は座席数を100席まで増やし、長距離飛行も可能なMRJ100Xという構想もある。

 最近までの受注数は65機。全日空の50機と米トランス・ステイツの15機だが、将来の受注目標を1,000機とし、それ以上の注文を取るつもりで、シンガポール・ショーでは「将来には自信がある」と強気の報道発表をしていた。

 たしかに、インドネシアからも5機の予約がきているようだから、これが確定注文となり、機数も増えて、ロシア機の分まで取りこむことができれば、チャンスをモノにしたといえるかもしれない。

 敵失が味方の得点につながるか。ここがMRJの頑張りどころである。

(西川 渉、2012.5.28)

【関連頁】

   スーパージェットの事故(2012.5.22)
   <パリ航空ショー>三菱リージョナルジェット(.2007.7.2)
   <パリ航空ショー>続三菱リージョナルジェット(2007.7.18)
   <パリ航空ショー>三度び三菱リージョナルジェット(2007.12.12)

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