NBAA2000

 好調のセスナ・サイテーション 

 

 NBAA大会から伝えられたセスナ・ビジネスジェット「サイテーション」シリーズの現況は以下の通りである。

 

 サイテーションは現在、世界75か国で3,100機以上が飛んでいる。受注状況は2001年末までの生産分がすべて売約ずみとなった。ここ5〜7年間のビジネス機ブームに乗った結果で、機種によってはもっと先まで売り切れとなっている。受注残高は2000年9月末現在で61億ドル――9か月前の1999年末の53億ドルに対して15%増で、機数にして730機に達する。

 しかし、余りの好調ぶりにセスナ経営陣にはむしろ慎重な心配りが見られる。顧客はいつセスナから去って行くかもしれないかと思うと、決して浮かれてはいられないというのである。機体の開発も重要だが、その機体を買ってくれた顧客に対してどれほどの技術支援や部品補給などのアフターサービスをするか、その方がむしろ大切である、と。

 その意味で、今年のNBAAショーではセスナ新機種の開発計画は発表されなかった。設備投資は顧客サービスのための部品補給施設、整備施設、訓練施設に向けられている。

 余談ながら、こんなことは10年前にバブルの崩壊を経験した我々日本人には当然のことのように思われる。けれどもバブル全盛期は、ほとんどの企業が浮かれっぱなしだった。あのとき事業の拡大でも資金の運用でも、もう少し慎重にしていれば、ここまで次々と大企業が倒れるようなことはなかったのではないか。

 

 さて、セスナ社ではサイテーション・ソヴリンの開発が計画通りに進んでいる。現用サイテーションZの後継機で、8〜13席。原型機は、最初の機体が目下製作中だが、これは地上試験に使われる。飛行試験1番機となる2号機は2001年初めから製作がはじまり、2002年春初飛行する予定。そして2003年末までに型式証明を取り、2004初めから量産機の引渡しに入る。エンジンはPW306C。アビオニクスはハニウェル・エピックを採用する。機体価格は1,200万ドル。

 もうひとつの新しい計画は、サイテーション・シリーズの最先端をゆくサイテーションXをさらに改良し、出力を増強してペイロード/航続性能を高めるというもの。このためロールスロイスAE3007C-1エンジンの推力を今の2,920kgから3,060kgへ5%増とし、最大離陸重量を400ポンド増の36,100ポンドとする。これで燃料満タンでも7人の乗客が乗れるようになり、しかも滑走距離は短くなる。それでもマッハ0.92での航続距離は変わらない。引渡しは2002年1月1日からはじまる予定で、量産173号機に当たる。

 なお、サイテーションXは世界最速のビジネスジェットとして1996年8月から引渡しがはじまった。最近までの受注数は125機以上。

 

 一方、セスナ社では今年、3種類のサイテーションが続けさまにFAAの型式証明を取得した。CJ1、CJ2およびアンコールの3機種で、CJ1は3月から引渡しがはじまっており、このNBAA大会の直後に量産40号機が引渡される。

 また今年4月にFAAの型式証明を取ったアンコールは量産1号機がNBAAの直前に引渡されたばかり。機体価格720万ドルで、運航費はターボプロップ機よりも安いというのが売り物。7〜11席。PW535Aエンジンを装備して、巡航427ノットで飛行する。

 新しく型式証明を取ったCJ2は、NBAA終了後1週間ほどのうちに引渡しがはじまる。

 その他、目下生産中のサイテーションは、ブラボーが旅客7〜11席。旧サイテーションUの機体に新しいエンジンPW530Aを装着したもので、航続3,500km。高度12,500mを400ノットの高速で飛ぶ。機体価格は520万ドル。

 エクセルは880万ドル。8〜11席。キャビンは天井が高く、PW545Aエンジンを装備して、最大巡航429ノットで3,850kmを飛ぶ。量産100号機が8月に引渡されたばかりだが、200機以上の受注残がある。

 なおサイテーションZは今年いっぱいで生産を終了する。最後の機体は119号機になる予定。その後はサイテーション・エクセルと新しい大きなキャビンを持ったサイテーション・ソヴリンが受け継ぐことになっている。

 

 なお、先に書いたように、セスナ社では顧客サービスのための施設拡充をすすめている。たとえばウィチタではパーツ・センターの建設がはじまり、カリフォルニア州サクラメントには大整備センターを開設、パリのセスナ・センターも拡張された。今年末にはフロリダ州オーランドに新しい巨大サービス・センターの建設がはじまるが、これが2002年初めに完成すればオーランドの施設規模は現在の5倍になる。

 セスナ社に関するもうひとつのニュースは、新しい「サイテーションシェア」と呼ぶ合弁企業を設立、サイテーションについて50機の注文を受けたということ。このニュースは去る7月下旬のファーンボロ航空ショーで明らかにされたもので、いま最も盛んなフラクショナル・オーナーシップ事業へセスナみずから乗り出したということになる。

 もうひとつ、セスナ社は小型軽飛行機の生産にも当たっているが、今年は980機を出荷する計画。いずれも単発ピストン機で、スカイホーク、スカイレーン、ステイショナーといった機種がある。

 

 ところで、サイテーション双発ビジネスジェットは余りに機種が多すぎて、話を聞いていてもよく分からない。さまざまな機種をすっきりと頭に入れておくのはちょっとむずかしく、セスナの社員もときどき混乱すると笑っていたほど。ここまで細分化されたのは、顧客の細かい要望にいちいち応えて開発を続けているうちにそうなったのか、あるいは競争相手のさまざまな機種にそれぞれ対抗しようとして開発してきた結果なのか。

 混乱気味の人は本サイトのサイテーションの頁をご覧いただきたい。私なりに整理したものである。メーカーの検閲を受けたわけではないので、間違ったところがあるかもしれぬが、本文の途中に出てくる系統樹(下図)は自分でもうまくできたのではないかと思う。

 

 

 この中のエクセルは今年春デモンストレーションのために来日、厚木飛行場から松本空港までの往復飛行にのせてもらった。機内はゆったりと広く、与圧がしっかりしているから上昇降下の際に耳が痛くならない。逆に、その分だけ急上昇や急降下もできるというわけである。

 こんな飛行機で旅行して歩いたら、誰だって病みつきになるであろう。空港で乗り継ぎ便の待ち合わせをしたり、知らぬ人と肘をぶつけながら窮屈な座席に縛りつけられることもなく、好きなときに好きなところへ飛ぶことができるのだから。

 松本空港からの帰りは、まっすぐ南下して富士山のすぐ横を通り、雲の合間に雪をいただいた頂上の迫力ある景観を拝むことができた。 

(西川渉、2000.10.20) 

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