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ティルトローター機とヘリコプター

 

 

 米国のビジネス機の主流はいうまでもなく固定翼機である。それも3分の2以上がビジネス・ジェットであることは、すでにご報告した。しかし、ヘリコプターもまた便利に使われていることも確かであろう。

 というのは、本紙10月22付のレポートでお伝えしたように、米国ビジネス航空協会(NBAA)の会員の中では、総数6,275機の保有機のうちヘリコプターは434機で、全体の7%を占める。一方FAAの集計によれば、1995年初め全米の民間機総数18万余機のうちヘリコプターは4,500機で3%に満たない。ということは、ビジネス機として使われているヘリコプターの割合は全米平均の2倍以上に当たるのである。

 ともあれ、9月下旬の米国ビジネス航空協会(NBAA)大会には、ヘリコプター・メーカーもベル、ボーイング、ユーロコプター、シコルスキー、アグスタの5社が出展した。今回はその話題を見て行くことにしよう。

  

BB609の受注数は41機

 ベル社はボーイング社と共同開発中の民間型ティルトローター機、BB609のモックアップを展示した。この実物大の模型は6月のパリ航空ショーで展示されたものと同じかどうかよく分からないが、コクピットやキャビンの内容はさらに本物らしくなっているような気がした。

 受注数はパリ・ショーの時点で36機だったが、最近までに5機増加して41機になった。発注しているのは29社で、その中にはロス・ペロー2世のヒルウッド開発会社も含まれる。ダラス近郊のアライアンス空港などの開発に当たっている企業で、このBB609が実用段階になったとき、量産工場はこのアライアンス空港に置かれるのではないかという話も出ていた。

 ほかに米ペトロリアム・ヘリコプター社、エバグリーン・ヘリコプター社、ノルウェーのヘリコプター・サービス社などが発注している。

 開発作業はベル社とボーイング社で着々と進行中。胴体と主翼の構造も、すでに多くの作業が完了した。初飛行は1999年なかばの予定で、原型4機で試験飛行をおこない、2001年春までに型式証明を取る計画である。

 基本価格は800〜1,000万ドル(10億円前後)。この中にはパイロット2人乗りのIFR装備とパイロット1人のVFR装備が含まれ、機内のグラス・コクピットや客室の標準的な内装も入っている。将来の総需要は約1,000機の見こみという。

 

EC120に間もなく型式証明

 ベル社と並んで地元に組立て工場を持つアメリカン・ユーロコプター社は、連日EC135のデモ飛行をつづけた。NBAA会場のコンベンション・センター屋上がヴァーティポートになっているので、ヘリコプターにとっては都合が良い。EC135に関心のある顧客は、誰でもここから試乗することができる。

 EC135の受注総数は現在80機に近い。うち20機は米国からの注文。引渡しは1996年夏からはじまっていて、救急用途が多いと聞いた。

 ユーロコプター最新のEC120は間もなくFAAの型式証明を取得する予定。最近までの受注数は90機。うち2割が米国からの注文だそうである。

 もうひとつの話題はドーファンの新型AS365N4。パリ航空ショーで初めて公表された計画で、原型機はすでに試験飛行中。来年2月のHAI大会で正式に開発決定を出すもよう。

 エンジンはチュルボメカ・アリエル2Cが2基で、最大連続出力は現用N2の632shpから800shpへ増大した。最大離陸重量は550kg増の4,800kg。自重はN2の約2,300kgに対して2,523kgだから、総重量増加分の半分以上がペイロードとして使えることになる。

 機内容積はN2にくらべて4割ほど大きく、キャビンの長さは約25cm長い。天井も20cmほど高く、幅も12〜27cm広がっている。手荷物室の大きさは2倍に増えた。

 ローター・ブレードは、N2の4枚が5枚に増え、ハブ機構はスーパーピューマと同じ。尾部には新設計のフェネストロンがつき、騒音が小さくなった。これはEC135用に開発された構造と同じもので、ブレードが非対称的に植えつけられ、ステーターの特殊な形状と相まって、騒音は尾部ローターのないノーター機に匹敵するところまで小さくなった。

 速度や航続性能は総重量の増加にもかかわらず、前の水準を維持する。巡航速度は260km/h、航続740km。NBAAの話題にふさわしいビジネス・ヘリコプターで、VIP乗用機として定評のあるS-76に対抗できる機体をめざす。価格は未定だが、S-76よりもやや低く抑えたいという。

  

S-76C+にカテゴリーA承認

 S-76C+とS-76BはカテゴリーAの垂直離着陸ができるようになった。これで片発でも安全な飛行が可能になり、周囲に不時着場所の取れない密集地のヘリポートでも安心して離着陸できる。

 S-76C+のエンジンはアリエル2S1。30秒間の片発緊急出力が980shpで、これによりカテゴリーAが承認されたもの。巡航速度は260km/h。

 NBAA大会の会場にはS-76C+が展示された。1996年夏に型式証明を取ってからの引渡し数は14機。今年中に20機を引渡す予定である。価格は1機760万ドル。なおシコルスキー社では、今後S-76C+のみを生産する予定だが、顧客の希望があればS-76Bの製造もするという。

 一方、目下開発中のS-92は、ストラットフォード工場でヘリバスとしての全体像が姿を見せはじめた。すでに2機目の組立も始まっており、3機目の部品も運びこまれた。

 S-92は1998年に初飛行し、2000年に型式証明を取る予定。この19人乗りの大型ヘリコプターの開発には国際的な6社が共同で作業を進めている。シコルスキー社を筆頭に、日本の三菱重工、中国CATIC、台湾エアロスペース、エムブラエル社、スペインのガメサ社が参加、三菱が胴体中央部をつくり、前方のコクピット部分は台湾製、後方の尾部は中国製である。

  

改良型のMDエクスプローラー

 マクダネル・ダグラス社はボーイングとの合併によって社名がなくなった。会場に展示されたMDエクスプローラーやMD600Nも、胴体にはボーイングの文字が描いてある。しかしヘリコプターの呼称としては、MDエクスプローラーのままでゆくらしい。

 そのMDエクスプローラーは双発、8人乗りのノーター機。9月5日に性能向上型の量産1号機が初飛行した。これまでのエクスプローラーに対して、新しい高出力のPW206Eエンジンを装備、ペイロードは110kg増加している。またエンジンとノーター・ファンの空気取入れ口を改め、尾部のスタビライザー・コントロール系統を改善して燃費を減らし、航続性能が6%向上した。

 この改良型の開発はイギリス警察から10機の注文を得てはじまった。10月にカテゴリーAの型式証明を取って、11月から引渡しに入る。パイロット1人の計器飛行も可能になる見こみ。なおMDエクスプローラーの引渡し総数は、1994年12月に型式証明を取って以来、最近までに約30機。

 一方、単発型のMD600Nは、今年夏、米沿岸警備隊から45機の大量注文を得て意気が上がっている。最近までの生産数は25機に近い。

  

コアラは今年中に型式証明

 アグスタ社はA109Eパワーを展示した。同機は昨年5月にイタリア民間航空局の型式証明を取り、8月にFAAの承認も受けている。

 これまでのA109Cにくらべて出力が大きく、最大離陸重量でカテゴリーAの飛行が可能になった。また片発になっても、地面効果内であれば最大全備重量のままホバリングができる。現在の最大離陸重量は2,700kgでFARパート27の軽ヘリコプターだが、近く2,850kgまでの増加が認められる見こみ。

 エンジンはPW206Cターボシャフト(640shp)が2基。従来の109Cについていたアリソン250C-20Rにくらべて、出力が4割増し。FADECディジタル・コントロール装置も装備され、片発停止のときの出力増加措置も自動的にできるなど、パイロットの負担は大幅に軽減された。

 このエンジン出力はA109K2のアリエル(771shp)にくらべると少ないようだが、高度3,000m以下ではほとんど変わりがない。そのうえPW206Cの方が燃費が少なく、重量が軽く、かつ費用も安い。A109Eの受注数は、これまでに約40機に達している。 もうひとつ、アグスタ社の新しいA119コアラ単発機は、当初アリエル1エンジン(800shp)を装備して1995年のパリ航空ショーにデビューしたが、その後、最新のPT6B-37エンジン(1,002shp)に換装して試験飛行をつづけている。1997年末までにFAAの型式証明を取る予定。

 かくて、ヘリコプターもまた、どの機種に限らず安全性が向上し、飛行性能が改善され、ますます乗り心地が良くなり、ビジネス機としての評価が高まってきた。

(西川渉、1997年11月5日付『WING』紙掲載)

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