情報事情の大逆転

『ネットワーク思考のすすめ』

(逢沢明著、PHP新書、1997年3月7日刊)

 コンピューターの発達によって、今や大量の情報が世界中で簡単かつ迅速に送ったり受け取ったりできるようになった。インターネットは、そうしたシステムのひとつだが、その結果として、よそのコンピューターの使用料がただになり、ついでに情報そのものも無償で提供されるようになってきた。

 しかも、もっと大きな変化は「情報はどんなにたくさん取り寄せても無料だが、自分のホームページをもって情報を発信するときには、掲載料を接続業者に払わなければならない。情報を受信する側が無料で、発信する側が有料というのは、ウェブ型メディアにおける“ギガの効果”によって生じた大逆転現象である」

 とすれば、今われわれは料金を払ってNHKテレビを見たり、新聞を取っているが、こういうものもいつかは無料になるのかもしれない。少なくともインターネット上では、ほとんどの新聞記事を無料で読むことができる。そのためか、最近は一本立ちした若者の間でも新聞を取る人が減ってきた。

「実際、さまざまなコスト負担原則は大きく変わりつつある。インターネットの接続業者の中には、接続料金をまったく無料にするところが現れた。……WWWのブラウザも無料ソフトを提供するという新しい商習慣が大成功を収めた……検索サービスなども無料で提供される」と本書は指摘する。

 そうなると「利用者という“個人”が、ネットワークという“全体”を、まるで自分自身のものであるかのように利用することができる」。その結果、かつての「中央集中型の情報ネットワークでは、中央の大型コンピューターは“ホスト”(主人)と呼ばれていた。しかし、現在は“サーバー”(召使い)という呼び名に変わってしまった」という指摘もうまい比喩で、読むものを納得させてくれる。

 かくて「ウェブ型メディアが仮想の大都会として発展する可能性はきわめて高い」そのような「情報ネットワークが源泉となって、新たな文明・文化と、その担い手が誕生する」

 だからといって、外国文化に迎合したり、最近のパソコン業界に見られるような奇妙なカタカナ英語を取り込んだりする必要はない。著者も「世界中にネットワークを張り、ユニークな発想力を維持し続けながら、日本人は今後も独自の文明を育てていくにちがいない」と結んでいる。

(西川渉、97.5.1

(EMB-145)

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