交通事故死は半減できる
――小 言 納 め――
今朝の新聞に、政府の第6次交通安全基本計画(1996〜2000年)が目標を達成できなかったと書いてあった。計画の目標とは、交通事故の死者を年間9千人以下とすることだったらしい。しかるに12月29日、死者が9,000人を超えて9,004人となってしまい、大晦日までには9,050人前後になるだろうというのが警察庁の見通しという。
目標達成があやしくなったため、国家公安委員会は12月15日、年末の事故防止を呼びかける「異例のアピール」をしたようだが、いかに異例であろうと特例であろうと、通達や訓示くらいで死者が減るならば何の苦労もない。末端の警察官ばかりに苦労を強いる役所仕事の典型である。
本頁でもしばしば取り上げているように、わが国交通事故の死者は1万人前後という数字がなかなか下がらない。1996年からは下表のようにようやく1万人を下回るようになり、少しずつ下がるかと見えたが、ここにきて再び増加に転じた。
年 次 交通事故死者(人) 1995
10,679
1996
9,942
1997
9,640
1998
9,211
1999
9,006
2000
9,050(推定)
また都道府県別の最近の実績から、死者の多いところと少ないところを見ると下表の通りになる。
都 道 府 県 交通事故死者(人) 死者の多いところ
北海道
545
愛知県
440
千葉県
415
東京都
410
埼玉県
387
死者の少ないところ
鳥取県
54
徳島県
72
島根県
74
ここまで書いてくれば、航兵衛が何を言いたいかはお察しの通り。なぜヘリコプターを使わないのかということである。
ヘリコプター救急が最大の効果を発揮するのは交通事故である。欧米諸国では多数の救急ヘリコプターが飛んでいるが、そのはじまりはほとんどの国で交通事故がきっかけであった。日本でも昨年来ドクターヘリコプターの試行がはじまったが、交通事故にはほとんど使われていない。もしこれが交通事故に向けられたならば、あと半月という土壇場になって、あわてて公安委員会が無駄な呼びかけなどしなくてもよかったはず。
しかも、第6次交通安全基本計画がはじまった1996年からヘリコプター救急が実行されていたならば、安全目標が達成されたばかりか、死者の数は目に見えて減ったにちがいない。それだけ無駄に命を喪くした人が多かったということである。
交通事故に関して、警察は予防的な取り締まりをおこない、事故が起こった後の救急は消防が担当する――というのは日本だけの誤った思いこみか縦割り行政の悪弊で、警察が救急業務をしてはいけないという法はない。現に欧米でも、たとえばイギリスでは全国14か所中3か所で警察のヘリコプターが救急のために飛んでおり、アメリカではおそらく100機程度が飛んでいるだろう。
日本でもときどき警察のヘリコプターが山岳遭難者の捜索や救出に当たったという報道がある。けれども何故か、日常的な救急には使われていない。警察ヘリコプターは消防・防災ヘリコプター67機の1.5倍、全国に100機ほど配備され、平成12年度末には104機になる予定。これが交通事故に出動すれば大きな威力を発揮するのはまちがいない。まさか都知事の三宅島や小笠原視察の乗用機として飛ぶだけで、こと足れりというのではあるまい。
交通安全基本計画は第6次というから、2001年からは第7次が始まるのであろう。とすれば、その目標は死者1万人を9千人に減らすなどというケチな目標――といって悪ければ、この程度の数値は誤差の範囲でしかない。なぜなら5年間で10%減らすというのだから1年あたり2%以下――サラリーマンのリストラ解雇率の方がよほど大きい。
政府が5年もかけるほどの基本計画ならば、せめて3割減の7千人とか、半減くらいの目標を立てるべきであろう。そして、達成のためにはどうすればいいか、あらゆる知恵と手段を使って実行してゆくべきだ。ドイツが交通事故の死者を計画的に3分の1にまで減らしたことは、本頁でもしばしば書いた通りである。
事故の死者を1割減らす程度の目標はとうてい目標とはいえず、何もしなくても偶然によって達成されたり、されなかったりという程度の数値である。現にこの4年間減リつづけるはずの死者が、5年目になって増えたというのは国家公安委員会の名を借りた警察が文書の上で呼びかけたり、通達を出しただけで、具体的な施策は何にもしていなかったことの証左である。
こんな警察では交通事故は減らぬし、犯罪は増えるばかり。このままでは新しい年もまた交通事故に遭えば死は免れぬと覚悟するほかはない。そう締めくくって、今年の仕事納めならぬ小言納めといたしたい。どうぞよいお年を……などと気楽なことを言ってる場合じゃないが。
(小言航兵衛、2000.12.31)
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