犠牲者を悼む

――嗚呼、オスプレイ(2)――

 

 12月15日付け『ニューヨーク・タイムズ』が、4人の海兵隊員の告別式のもようを伝えている。オスプレイの事故で死亡した犠牲者である。

 場所はニューリバー基地。チャペルには4つの遺影が米国旗と共に飾られ、その前に新しい飛行服とヘルメット、祭壇の下には飛行靴がそろえてある。それに向かって700人の海兵隊員が整列し、犠牲者の冥福を祈ったのであった。

 このときすでにフライトレコーダーは回収されていた。しかし、4人の遺体は森林に墜落し炎上したオスプレイの中で焼失し、原形をとどめなかったらしい。「4人の名誉と残された遺族のためにも、われわれは事故の真実を明らかにし、問題を解決しなければならない」という弔辞が読まれた。

 事故機を操縦していたキース・スウィーニー中佐(42歳)は来年発足予定の最初のオスプレイ飛行大隊の大隊長に任命される予定だったし、これまではオスプレイの評価試験をおこなうテスト・プログラムの責任者だった。もう一人のパイロット、ミッチェル・マーフィー少佐(38歳)は、オスプレイのテスト・チームに入る前、3年のあいだクリントン大統領の専用ヘリコプター「マリーンワン」の操縦をしていた。

 このような優秀なパイロットが乗り組んでいながら、なぜ事故が起ったのか。原因はまだはっきりしない。気象条件は視程6マイル以上で悪くなかった。雲高も2,500フィート以上という中で、オスプレイは目的地から7マイル、3分ほどの地点にあって高度1,600フィートを計器飛行で進入しようとしていたと見られる。このときの飛行モードはヘリコプター状態だったという目撃者もいるが、飛行機モードだったという見方の方が強い。

 原因のひとつとして4月の事故と同じボルテックスリング状態におちいったのではないかという推測もある。しかし飛行機モードならば、それはあり得ない。また機体が地面に触れたときの姿勢がほぼ水平で、パワーセットリングに入ったときのような乱れがない。さらにパイロットは2人ともベテランである。スウィーニー機長は、この程度の訓練飛行でどんなに間違ってもパワーセットリングに近づくような操縦は絶対にしないと見られるからである。

 また一度だけメーデーコールがあったが、何か操縦ミスがあったとすれば、パイロットは機体の立て直しに忙しく、メーデー発信など出している暇はなかったはず。むしろ整備ミスか何か、機材上の問題が生じたのではないか。そのためコクピットの警報灯が点いて何かの故障を知り、咄嗟にメーデーを発したのであって、悪いところを気づかぬままに緊急信号を出したりはしないであろう。 

 そのメーデーコールから墜落までの時間が一瞬のことであることから見ると、ヒューマンファクターよりも機材上のトラブルである可能性が高い。オスプレイはメーデーを発した直後に沈黙してしまったのである。

 海兵隊内部では、この事故原因を明らかにするため事故調査委員会が発足した。通常の事故調査よりも上位の将官クラスの人物が委員長に就いた。

 さらにウィリアム・コーヘン国防長官は「ブルーリボン・パネル」と呼ぶ航空専門家から成る委員会を設け、オスプレイ計画の見直しをすることにした。コーヘン長官は、これまで常にオスプレイを支持する姿勢を取ってきたが、そうした立場を離れてオスプレイの是非を検討して貰いたいとするものである。

 パネルの委員は3人。海兵隊の退役将軍、空軍の退役将軍、そしてロッキード・マーチン社の前会長で、V-22の開発経過、試験結果などを検証しながら、設計、技術、性能、安全、訓練、量産、品質管理、費用などの問題について、もう一度高い立場から再検討し、海兵隊本来の要求を満たし得るかどうかを見直すことになった。

 今やオスプレイ計画に対しては議会を含めて疑問がわき起こってきた。これだけの大きなリスクと高い費用を費やしてまでオスプレイを実用化しなければならないのかという疑問である。

 それに対して海兵隊副司令のマッコークル准将は次のように語っている。「何があろうと、この航空機は海兵隊の将来にとって必要不可欠の機材であり、必ずや問題を解決して、計画を続けるつもりである。そのため我々は、いったい何が起こったのか全力を挙げて解明しつつある」

「海兵隊に課せられた任務を達成するのに、今やティルトローター以外の手段はない。これなくして作戦計画は立てられない。これまでのヘリコプターにくらべて2.5倍の速度がある。4倍の搭載力がある。5倍も遠くまで飛べる。これこそは、海兵隊の戦闘能力を飛躍的に高める技術にほかならない」

「これに匹敵する手段がほかにあろうか。無論いまのままでいいかどうかは分からない。もし何か問題があるとすれば、それを見つけ出して修正すればいいのである」

「オスプレイは海兵隊のみならず米国にとってもきわめて重要な計画である。それにも増して、オスプレイに乗って飛ぶ海兵隊員の安全は最大の重要事項である」

(西川渉、2000.12.24)

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