ヘリコプター巴里サロンの話題

 去る6月13日から20日までルブールジェ空港で開催されたパリ航空ショーは、初日からロシアのスホーイ戦闘機が墜落事故を起こすなど波乱の幕開けとなった。しかし、その後は旅客機にしても戦闘機にしても機材面に関する話題は少なく、エアバス機やボーイング機が大量注文を受け、スイスのクロスエアがブラジルのリージョナル・ジェットを大量発注したといった程度。

 むしろヘリコプターの方が話題は豊富で、わずかな誌面には書ききれないほどである。その中から、ここでは主要なものに絞って、整理しておきたい。

AB139の内容公表

 AB139は、これまで名前だけが喧伝されながら、具体的な内容は公表されていなかった。伊アグスタ社が米ベル社の協力を得て開発する中型双発ヘリコプターで、ショー会場で初めて実物大のモックアップが公開され、飛行性能、開発計画などの内容が明らかにされた。

 機体形状は主ローターが5枚ブレード、胴体には大きなスライディング・ドアがつき、降着装置は引込み脚。エンジンはP&W PT6C-67Cターボシャフト(1,680shp)が2基。総重量6,000kgで、巡航速度290km/h、長距離巡航278km/h、航続距離750kmの飛行性能をもつ。キャビンも大きく、民間機としては乗客15人の搭載が可能という。

 開発と販売に当たるのはベルとアグスタの合弁企業、ベル・アグスタ・エアロスペース社(BAAC)。2000年末に初飛行し、2002年末までに型式証明を取る計画で、基本価格は600万ドル。20年間に900機という強気の販売目標をかかげている。

 用途は石油開発支援、警察活動、救急救助などで、シコルスキーS-76やユーロコプターEC155が競争相手となる。また軍用市場も視野に入れており、特にイタリア政府の採用する可能性が高い。

 アグスタ社の元気の良さはAB139にとどまらない。AB139と引き換えに、ベル社が進めてきたBA609ティルトローター機の開発に協力するのはもちろん、独自に開発したA119コアラ単発機(7人乗り)が、この7月イタリア政府の型式証明を取得することとなった。

 一方、A109双発機の売れ行きも好調。このほど南アフリカ空軍から40機の注文を受け、2001年に引渡しが始まる。救急機としても昨年1年間に24機を受注した。

 A129攻撃機も展示された。イタリア陸軍は同機を45機保有するが、近く近代化のための改修作業に入る。内容は主ローターを5枚ブレードに改め、アビオニクスやセンサーを改良、20ミリ機関砲やスティンガー空対空ミサイルを装備するというもの。改修は2000年からはじまる予定だが、追加15機の新製機も同じ仕様で製造される。

コンパウンド機の試作へ

 アグスタ社は英ウェストランド社のコンパウンド・ヘリコプターの開発にも協力している。これはウェストランド社が10年ほど前から研究してきた民間向けコンパウンド機で、技術的な実証試験をするため、実験機の製作に必要な資金を欧州連合に申請中。試作機はリンクス・ヘリコプターに固定翼をつけ、RRチュルボメカRTM322ターボシャフト・エンジンを装備する。

 これには英国防省も関心を寄せ、すでに模型による風洞試験などの研究費を出している。一連の開発作業がうまくゆけば、ウェストランド社としては2006〜2008年には実用化できるという。

 コンパウンド機は、いうまでもなくヘリコプターに固定翼を取りつけ、垂直に離着陸しながら、ヘリコプターよりも高速で巡航飛行ができる。旅客機としても都心から空港までのフィーダー便に使えるし、軍用機としては現用シーキングによる早期警戒任務の代替など、さまざまな用途が考えられる。

タイガー攻撃機の量産契約に調印

 今回のパリ航空ショーで、もうひとつの大きなニュースは仏独両国政府がわざわざ会場でユーロコプター・タイガー攻撃機の契約書にサインしたことであった。契約内容は両国80機ずつを調達するというもの。ドイツ向けのタイガーは対戦車攻撃と地上支援を目的とするUHT、フランス向けは護衛と支援を目的とするHAPである。引渡しは2001年からはじまる。

 これで1991年の初飛行いらい長年にわたって開発がつづき、原型5機で2,200時間の試験飛行をしながら、一時はご破算かと見られた計画が、ようやく量産段階に入る。最終的にはフランスが215機、ドイツが212機を調達する予定。

 この両国の発注によって、今後新たに外国政府からの発注も期待できる。当面の売りこみ先はトルコ、オーストラリア、ポーランドだが、同じ需要をアグスタA129改良型もねらっているから、激しい競争が演じられよう。

 ほかにユーロコプター社はEC155のデモ飛行を見せた。機内は客席数が最大12席。AS365N3にくらべると、キャビン容積は4割ほど大きくなり、最大離陸重量は500kg増。最大巡航速度は260km/hで、航続830km。エンジンはチュルボメカ・アリエル2C1が2基。

 EC155は騒音の少ないのが特徴の一つで、ICAOの基準に照らしても4.5デシベルほど静かである。これは5枚ブレードのスフェリフレックス・ローターと独自のフェネストロンによるもので、機内の乗客も静かで快適な飛行を楽しむことができる。同機は今年3月から量産機の引渡しがはじまった。

 またAS332スーパーピューマは量産500号機がショーの会場で引渡された。受領したのは英ブリストウ・ヘリコプター社。また100機目のEC135も、ドイツの国境警備隊(BGS)に会場で引渡された。

MDヘリコプター倍増計画 

 欧州勢の元気の良さに対して、アメリカ勢の話題はいささか少ない。MDヘリコプターもアメリカの製品ではあるが、その製造販売権は今年2月ボーイング社からオランダのRDMホールディング社に移った。この欧州側オーナーも意気軒昂で、半年足らずの間に昨年1年間にボーイング社が売った機数よりも多くの注文を受けている。

 パリ・ショーでの発表によると、MD500/600およびエクスプローラーについて、最近中南米と欧州から合わせて23機の注文を獲得したという。うち8機はメキシコ海軍向けのエクスプローラー。また9機は欧州向けで、ドイツの警察から3機、英国警察から2機のエクスプローラーを受注している。ショーでもエクスプローラーが展示飛行を見せた。

 さらに同機はは目下、米沿岸警備隊に2機が提供され、運用評価テストを受けている。今後は警備隊の要求にもとづいて一部を改造し、特殊装備をほどこした2機の追加テストをつづける予定。

 こうしたことから、同社は今年54機のMDヘリコプターを引渡す計画。昨年の生産数はボーイング社による36機であった。また来年は75機、2001年は100機という目標を掲げている。

S-92ヘリバスを展示

 シコルスキー社からは昨年12月23日に初飛行した大型ヘリコプター、S-92が出展された。半年間の試験飛行は40回で50時間になったという。今後は2001年までに4機で1,400時間を飛んで型式証明を取る予定。

 ただしまだ具体的な注文がなく、カナダや北欧などへ懸命の販売活動がつづいている。そのためシコルスキー社は、海軍型S-92の開発も計画しており、せまい艦内にも格納できるよう主ローターと尾部の折りたたみを可能にするという。

 一方ベル社は、アグスタに押されているわけではあるまいが、モデル412の改良型、412+(プラス)の開発を決めかねている。開発着手の決定はパリで発表になるかと見られていたが、今年末まで延期された。

 412+が従来の412と異なる点は、エンジン、ローター、コクピットが新しくなり、近代化される。心配なのはAB139との競合だが、ベル社のテリー・スティンソン会長は「オーバーラップするところは、それほど多くない」と語っている。

 というのは、412+は実質的にAB139よりも安い。旧412にくらべて新しいエンジンを装備して燃費が少なくなり、運航効率が上がり、ペイロードも増加する。そのためAB139が航続距離や速度などの高性能を主目的としているのに対し、412+は低価格の経済性が目標である、と。

 なおベル社はパリ・ショーのひと月前、5月14日に史上初のティルトローター量産機、MV-22Bを米海兵隊に引渡したばかり。また民間向けBA609の確定受注数が77機になったと発表した。同機は2000年末に初飛行し、2002年なかばから量産機の引渡しに入る計画で、ベル社の関心は大きくティルトローター機に傾いているといってよいであろう。

 加えて同社では乗客14〜19人乗り、2,200shp級のエンジン2基を装備する新しいティルトローター機の予備設計もはじまり、さらに二つの固定翼と四つのローターを持つ大型輸送用ティルトローター機「QTR」の構想も研究されている。

 

(西川渉、『ヘリコプター・ジャパン』99年8月号掲載)

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