4発ティルトローター輸送機

 

 

 5月下旬モントリオールで開かれた国際ヘリコプター学会AHSで、ベル社が展示したニューアイディア、4発ティルトローター機については3日ほど前の本頁(99.6.6)でご報告した。同じものを英『フライト・インターナショナル』誌6月8日号が「クォド(4)・ティルトローター機の研究中。数年後にはハーキュリーズ級のティルトローター機が実現する可能性もある」と書いている。

 私のレポートだけでは不充分なところがあるので、フライト誌の要旨をここに記録しておきたい。

 ベル社とボーイング社は共同で、4基のプロップローターを持つティルトローター機を研究している。現用大型ヘリコプターおよび戦術輸送機の後継機をねらったものだ。

 このクォド・ティルトローター機(QTR)の基本は、今のV-22から翼、ナセル、エンジン、プロップローターを流用し、ロッキード・マーチンC-130-30の胴体と組み合わせる。これにより大型ティルトローター輸送機が数年以内に実現できるという発想。

 このタンデム・ウィング機は垂直離着陸時の重量が45,500kg程度で、V-22のおよそ2倍。最大離陸重量は63,500kg以上である。

 開発と製造のためのコストは、既存のものを使うので大してかからない。すなわちハーキュリーズの胴体を延ばして、その前方にV-22の翼とナセルを取りつけ、胴体後方にも、もうひとつV-22の翼とナセルを取りつける。ただし後方の翼はスパンを延ばす。これでハーキュリーズと同程度のペイロード搭載が可能になる。ハーキュリーズの胴体流用については、ロッキード社と話し合いがおこなわれたが、結論は出ていない。

 QTRはまだ構想段階である。2つの翼と4つのプロップローターの間に発生する複雑な気流については目下、水流を使った可視化テストがおこなわれている。

 また巡航飛行中はプロペラが4基も要らない。そこで、垂直離陸から前進飛行に遷移したのちは、後方2基のプロペラをたたむという考え方もある。このプロペラの折りたたみについて、ベル社はイーグルアイ・ティルトローター無人機を使ったテストを考えている。さらに高速巡航を可能にするには、プロペラをたたんだのち、ジェット・エンジンで飛ぶことも考えられる。

 QTRの開発研究は今のところ、自社資金でおこなわれている。しかし、この構想には政府の関心も相当に高い。特に米海兵隊は現用KC-130タンカーとCH-53Eヘリコプターの後継機として、新しいロータークラフトを探しているところで、その候補機のひとつにQTRはなり得る。また米空軍が求めている「超STOL」戦術輸送機にもなるであろう。

 

 なお、フライト誌の記事の中に「ペイロードはV-22の2倍以上、36,000〜40,000kgに達する」とあったが、この数字はちょっとおかしい。上の要旨からも外しておいた。

 もうひとつ、モントリオールから戻って、この4発ティルトローター機のことを『航空情報』の逆井健氏に話したところ、その発想は必ずしも新しくないという逆の意見であった。たしかに1960年代、VTOL機が盛んに試作された当時、カーチス・ライト社がプロペラ4基のティルトウィング機を飛ばしている。

 同機はX-19Aと呼ばれ、試作2機のうちの1号機は1964年6月26日に初飛行した。機体の大きさは6人乗り。胴体の前後に固定翼をつけ、それぞれの翼端にプロペラをつけて、翼ごと変向できるようにしたティルトウィング機で、エンジンはライカミングが2基であった。

 とすれば、ベル社は当然、X-19Aのことを知っていてQTRを発想したのであろう。これこそは「温故知新」というべきであり、ニュー・アイディアといってもいいのではないだろうか。

(西川渉、99.6.9)

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