<小言航兵衛>

慟哭と憤激

 

 これが哭かずにいられるか。これが憤らずにいられるか。アメリカならば、事の善し悪しは別にして、直ちに報復戦争に踏み切るであろう。

 テレビ朝日ではひげを生やした自称経済評論家が「もっと冷静にね、落ち着いてね、今後のことも考えてね」と、ね、ね、を繰り返しながら、親が幼児をさとすような口調でしゃべっていた。こういう手合いが日本を駄目にしてきたのだ。

 ここで戦争にならないのは、無力な幼児だからではなくて、日本という国が長い歴史を生きてきた大人だからなのだ。

 NHKが昨日から、この残虐事件が明らかになったあと「北朝鮮」と言うだけで、「何々人民共和国」などという長ったらしい注釈をつけなくなった。かねて耳ざわりだと思っていたが、当然のこと今までのやり方がおかしかったのであって、流石のNHKも目が覚めたのであろう。

 目が覚めないのは朝日新聞で、依然として「何々人民共和国」と活字を並べて、その後に(北朝鮮)とつけている。以前のNHKよりももっと偏向したやり方だが、何故この国だけを特別扱いするのか。

 それならば「グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国」と書くべきで、気安くイギリスなどと簡単に片づけてもらいたくない。アフガニスタンだって「アフガニスタン・イスラム国」だし、イランは「イラン=イスラム共和国」、ウルグアイは「ウルグアイ東方共和国」、エジプトは「エジプト・アラブ共和国」、エチオピアは「エチオピア連邦民主共和国」、ガイアナは「ガイアナ協同共和国」、サウジアラビアは「サウジアラビア王国」、サモアは「サモア独立国」、シリアは「シリア・アラブ共和国」、スイスは「スイス連邦」、スウェーデンは「スウェーデン王国」、スリランカは「スリランカ民主社会主義共和国」、タンザニアは「タンザニア連合共和国」、ドイツは「ドイツ連邦共和国」である。日本だって、本当は「日本国」なのだ。昔は「大日本帝国」という堂々たる名前であった。

 さらに、テロ国家の犯罪行為について、新聞各紙の論説はどんな反応をしたのか。詳しく比較している暇がないので、取り敢えず社説の表題だけを並べると、次のようになる。

 さすがに朝日新聞だけは冷静である。そのうえで「天声人語」では「そうした特殊機関による『犯罪』は珍しいことではない。米国CIAに対する数々の告発をはじめ歴史上枚挙にいとまないし、かつてのわが国の特殊機関も例外ではない」と、みんなで渡れば怖くない式の幼稚な論法で自国まで引き合いに出し、自国をおとしめながら犯罪国家を弁護する。

 考えてみれば、日本政府が「日朝首脳会談」といえば、向こうは必ず「朝日首脳会談」と言い換える。なるほど朝日新聞も実はその意味だったのかと、今さらながらに納得できるのである。

(小言航兵衛、2002.9.20)

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