<小言航兵衛>

拉致された人質ニッポン

 

 米軍のイラク攻撃を許していいのか。国連を中心として世界中が論議を重ねている間に、日本はさっさとアメリカ支持を打ち出してしまった。あらかじめ国会や国民に説明することなく、いきなり国連で表明するとは何事か。アメリカ追随の弱腰外交だというのが日本政府を非難する国民の声である。

 しかし、われわれ日本人は、いつの間にか全国民こぞって北朝鮮に拉致されてしまっているのだ。まだ気がついていない人も多いと思うが、今や人質に取られているのである。むろん政府だけは気がついていて、だからアメリカに助けを乞うほかはないというので、支持を表明したのである。

 北朝鮮から見れば、日本は拉致してきた人質に過ぎない。だから人質と交渉するはずがない。話の相手はあくまでアメリカだといって、人質である日本には逃がさないぞとばかりにミサイルを向けているだけのこと。何かあったら、すぐにミサイルが発射できるように準備し、東京を火の海にしてやると嘯いている。

 ここまで日本を弱くしたのは、第一にアメリカのつくってくれた日本国憲法だが、第二にその憲法を後生大事にして、あわよくば北朝鮮か中国かソ連に日本を占領してもらいたいと願ってきた左翼勢力である。彼らは今も堂々と活動し、国会の中でも誰はばかることなく闊歩している。

 第三は、そうした勢力との間で妥協してきた自民党系の政治家たちである。結局は全国民が骨抜きとなって、北朝鮮ごときに拉致され、人質になってしまったのだ。

 アメリカにとっては北朝鮮などどうでもよろしい。あんなゆすりたかりの国とはつきあいたくないし、つきあっても何の利得もない。石油利権の眠るイラクこそターゲットだから、「北が来た」などと騒ぎ立てる日本はむしろ足手まといになってきた。このままアメリカにしがみついていると、いずれ蹴飛ばされたり、放り出されたりするのではないか。

 ここで北朝鮮と真っ向勝負して行くには、非核3原則など早いとこ廃棄すべきであろう。サッカーだのマツイだのと騒ぐ暇があったら、一劔を磨くくらいの準備をすべきだろう。テレビもそろそろ愚民放送をやめるべきである。

 こうした情けない構図は、わが航空工業界にもそのまま当てはまる。日本の外交がアメリカ追随だという点は、航空工業界に関しても同様で、民間機の仕事はほとんどボーイングの下請けである。自衛隊向けの軍用機もアメリカ機のライセンス生産ばかりで、ヨーロッパの方にはほとんど顔を向けようとしない。

 しかし今や、欧州勢の実力はあなどりがたいものがある。イラク問題についても、フランスとドイツが組んで真正面からアメリカの提案を拒否しているように、航空機も今年はいよいよ欧州エアバス機の生産がボーイングを上回る気配である。しかるに日本のメーカーは、エアバス機のリスクを取って本格的な共同開発をするようなところは見られない。

 さらに日本の産業界には、輸出3原則があって武器の輸出はしないことになっている。そのため航空工業界も、せっかく良い品物が出来ても外国への輸出がむずかしい。したがって採算が合わないから独自の開発はせず、アメリカの下請けをやるんだそうである。それでも安閑としていられるのは航空機製造事業法に護られて競争がなく、新たな市場参入を許さぬような仕組みができているからである。

 まさしく憲法や非核3原則のために弱体となった日本の現状と同じで、情けなさを通りこして滑稽ですらある。

 日本国も日本の航空も、そろそろ自分の脚で起ち上がるときがきたのではないか。

 それにしても、アメリカの勇ましいことよ。ドイツやフランスが何と言おうと、ロシアが拒否権を発動しようと、イギリスが離反しようと、国連の承認なんぞは要らないというのがブッシュ大統領の言い分である。誰かがフセインやキムよりもタチが悪いと評したが、まさに「悪の枢軸」の上を行く極悪というべきだろう。

 世界は、この男1人のために、分裂と混乱と紛糾と破滅への道をたどり始めた。


テキサス州サンアントニオのランドルフ空軍基地本部上空を飛ぶ
戦闘機の”USA”フォーメイション。
この写真を見たアメリカ人は多くの人が志気を鼓舞され、
アメリカ万歳を叫びたくなるらしい。

(小言航兵衛、2003.3.10/加筆2003.3.13)

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