航空の現代電脳篇 → ホームページ作法(9)

良いサイトと悪いサイト

 

 

 ベル・ヘリコプター社のウェブサイトについては、心ならずも苦情を言い続けてきた。デザインに懲りすぎる余り、画面をフレームで細かく区切ったうえに色んな仕掛けをするものだから、肝心の中味がなかなか出てこない。

 ちょっとしたニュースを読みに行っても画面表示に時間がかかり、途中で「スクリプト・エラー」なる表示で脅かされる。「このページのスクリプトでエラーが発生しました。スクリプト処理は取り消されました。[ライン:49]imageは宣言されていません」などと、わけの分からぬ警告が吃驚マークと一緒に出てきて、どうすればいいのかうろたえるばかりである。

 よく見ると「このページのスクリプトエラーはこの後は無視する」とあるので、そこにチェックマークを入れて「OK」を押すと、再び「ジャーン!」という音と共に同じ警告が出てくる。そこで、もう一度OKボタンを押して許してもらい、先へ進むこととなる。しかし、そのあとは画面を進めたり、戻したりするたびに、2回ずつ警告が出る。全くどうなっているのか腹立たしいこと限りがない。「この後は無視する」と言ったのに効き目がないのである。

 こんな手間ひまをかけ、費用をかけて目的の頁へたどりついて見ると、記事の右の方が画面からはみ出している。そのまま印刷すると画面の右の方の単語が切れてしまう。フォントを小さくしても紙面からはみ出すので、やむを得ずテキストデータでコピーして、ワードに移し替えてプリントしなければならない。したがって写真や絵は出てこない。

 そんなことを書いて本頁に掲載したところ、ヘリコプター専門サイトの「Rotor Wind」を主宰する斎藤実昭さんからメールが届き、「印刷用紙を横に使えばいい」という示唆をいただいた。早速やってみると、なるほどうまくゆく。横長の画面がちゃんと紙面におさまるのである。これは無論、ほかのはみ出し画面にも応用できる手で、「なんだ、そんなことも知らなかったのか」といわれるかもしれないが、恥をしのんでここに書いておく次第。

 しかし、だからといって問題の全てが解消したわけではない。ベル社は昔からおつきあいもあって、私の好きなメーカーだから、しばしばアクセスする。そのためにも,、ウェブ・マネジャーには早いとこ構造を変えて貰いたいものである。

  

 と、いいながらよく考えてみると、ベル社も悪いが、マイクロソフトのせいかもしれない。ブラウザーが悪くて、ベルのホームページ設計意図に合わず、それでエラー警告になるのではないかと思い至った。

 その意味で、山根一眞は『日本経済新聞』(8月8日付)に「ウィンドウは使いにくい」という一文を書いている。「ウィンドウズ98に浮かれる前に、本当に使いやすいパソコンを求める世界的市民運動を起こすときではないか」という結びには私も賛成である。

 というのは、私も職場でウィンドウズ98を使っているが、1日に2〜3度はフリーズを起こす。それも長文の報告書を書いて、いよいよフロッピーに保存しようとすると凍りついて、にっちもさっちも行かなくなる。例の「Ctrl+Alt+Delete」操作をしてもいうことをきかない。止むを得ずコンセントを引き抜くという最後の手段を繰り返さなければならない。

 そのうえ夕方、仕事を終わって終了操作をすると「ただいまウィンドウズ98を終了中です」という画面が出たまま決して終わらない。再び三たびコンセントを引き抜いて帰ると、翌朝は昨日の終了操作に間違いがあったのでエラーが発生している恐れがある。今からそれをチェックするといって脅かす。間違ったのは機械の方だろうに。

 これが連日のことだから、いずれ本当に故障するのではないかとヒヤヒヤしている。無論メーカーに電話をしたが、再インストールをして様子を見て下さいというだけで、どうにもならない。ちなみに、私の使っている機械はIBMの新しいアプティバで、ウィンドウズ98は初めからインストールされていた。

 なお『パソコンを鍛える』(岩谷宏著、講談社現代新書)には「ウィンドウズはコンピューターのオペレーティング・システムとしては比較的不良品の部類に属する」。マイクロソフトの「技術思想は一貫してたいへんお粗末である」と書いてある。その「使い勝手の良くない、内部構造の見通しも悪い製品がのさばって」世界中に「不健康な独占」状態をつくり出してしまった。

 全くその通りだとは思うが、それを使わせられる素人としては、どうすればいいのか。パソコンの本を書き、ソフトやハードをつくって飯を食っているプロの諸君にはもっと頑張って、マイクロソフトやウィンドウズを質的にも量的にも凌駕するものをつくって貰わなくてはならない。

  インターネットの使いにくさについては、わが敬愛するニールセン先生も怒っている。曰く「何故こんな欠陥システムを使うのか。ウェブは良くない。全く良くない」と。

 先生の推定では、商用ウェブサイトの少なくとも9割は、次のような理由で使いものにならないという。

・デザイン過剰で、ダウンロードに時間がかかる
・眞の情報は提供せずに、商品の宣伝ばかり大げさにするような設計になっている
・サイトの構造が見えにくく、一貫した論理性もなく、あるのは会社の組織にもとづいた構造である。
・おまけにナビゲーションの案内もないから、目的の頁を探し出すのが非常にむずかしい。
・利用者がオンラインのまま読みやすいような文体になっていない。(いつも言うように、ウェブの利用者は拾い読みしかしない)

 こうした状態でウェブサイトを利用しようとすると、特に初めて使う場合は、たいてい思い通りにならない。「もちろん何かが故障しているわけではない。設計通りに機能しているのだが、その設計が悪いから利用した結果はたいてい悲劇に終わってしまう」

 そしてニールセン先生は、ウェブ上で買い物をしようとしてうまくゆかず、注文した品物をキャンセルして腹を立てているのである。そのもようは直接、先生の書いたものを読んでいただくのがいいだろう。

 結論として「ウェブサイトの9割は良くない。大方のウェブ利用者は残りの1割を見るだけである」。言い換えれば、インターネットの利用者は、1割の時間で新しいサイトを探して歩く。そのときは悪いサイトにも行くけれど、すぐにそこを見限って二度と戻ってこない。そして1割しかない良いサイトでインターネット時間の9割を過ごしているのだ。

 しかしインターネット利用者が良いサイトを見つけながら、それでも玉石混淆のウェブ上を探索して歩くのは何故か。ニールセン先生は「インターネットを利用していると、心理学の実験に使われているネズミが籠の中のレバーを繰り返し押しつづけるような気持になるからだ」と理論づける。

 ネズミのレバーは、押すたびに必ず餌が出てくるわけではない。出鱈目な間隔をおいてときどき餌が出てくる。確実に餌が出るならば、いつでも好きなときにレバーを押せばよい。そして満腹になったらやめるのだが、いつ餌が出てくるか分からないために、妙な期待感と不安感が生じて、それで永久にレバーを押しつづけるのである。ネズミはついに肉体的、心理的に疲労困憊して倒れてしまうのだが、インターネットも同じで、次は何か有用な情報が見つかるだろうという期待感のもとに、人は飽きずにマウスを動かしつづけるのだ、と。

 読んでいて、私はニールセン先生に自分の心理状態を言い当てられたような気がした。ちょっとしたことを調べていても、もっと何かがあるのではないかと思って、なかなか接続を切ることができず、ついつい夜更かしをしてしまうのである。世に言う「インターネット症候群」のはじまりで、あの病気の原因はどうやらこのあたり――良いサイトと悪いサイトの混淆にあるらしい。やはり悪いサイトをつくってはならないのである。

 (西川渉、98.10.18)

 

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