アクセス向上委員会の電子メールで「誰にも知られたくないサイト」として紹介されたヤコブ・ニールセン氏のすぐれたホームページについては、3週間前の本頁にも書いたところだが、これはその続きである。
同氏が1997年10月1日付けで掲載した「インターネット利用者はホームページをどんな風に読んでいるか」という論文は、まことに面白い。
冒頭まず「彼らは読まない」と断言する。「利用者がホームページを一語ずつ読むようなことは滅多にない。読むのではなくて、スキャンするのである。言葉や文章を選び出すだけなのだ。最近の調査では、79%の人はスキャンするだけで、一語一語読む人は16%に過ぎない」と書いている。英語でスキャンとかピックアウト(選び出す)と書いてあるが、日本語では昔から「拾い読み」という。
したがって、ホームページは拾い読みができるように書かなければならないわけだが、その要領は、ニールセン氏によれば次の通りである。
●キーワードにハイライトを当てて目立たせる(ハイパーテキスト・リンクもその一つだし、文字に色をつけたり、太字を使ったりするのもハイライトの一法である)
●意味のある副題を使う
●箇条書きにする
●一つのパラグラフには一つのアイディアだけを書く(いくつものアイディアを書いても、利用者はパラグラフの最初の数語に興味がなければ、すぐに次のパラグラフへ飛んで行く)
●逆ミラミッド・スタイルで書く(結論から先に書く)
●文字数を普通に書く場合の半分以下にする
「大切なのはホームページの信頼性である。読者にとって重要なのは、そこに書いてあることが信用できるかどうかである。信頼性を高めるにはどうするか。質の高い図表を使い、良い書き方をして、外部のホームページとの間にリンクを張ることである。外部とのリンクを張ることは、著者が自信をもって書いていることを示し、また読者が裏を取ったり、外部へ逃げて行くことを恐れていないことを示すものだ」
ニールセン氏は、以上のような整理をしておいて、同じ内容を5種類の文章に書き分け、利用度がどのくらい増加したか、実験の結果を示している。
文字の数を半分にすると、それだけで利用度は58%増加する。また箇条書きにすると47%増になり、修飾語を取り除いて骨子だけにすると27%増になる。そこで、これら3種類の技法を全て応用すると、利用度は一挙に124%増になったというのである。
具体的な添削作業はどうなるか。先ず「ネブラスカ州は国際的に知られた魅力ある観光地でいっぱいです」といった宣伝文句を外す。こんな文章を冒頭にもってくると、それだけで読者は「ノー、そんな筈はない」と反発し、そのまま別のサイトへ飛んでいってしまう。
次に観光客の人数を外す。数字が並んでいると、人は何となく面倒臭く感じるらしく、上の実験でも数字を外しただけで利用度がぐんと伸びた。
結果は「1996年、ネブラスカ州で観光客の多かったのは次の6か所です」と書いて、あとは6つの観光地の名前を箇条書きに並べるだけ。味も素っ気もないようだが、この干物のようなスタイルにしただけで利用者の数は2倍以上になったというのだから驚く。
ニールセン氏の理論と実験が正しいとすれば、その理由は何であろうか。思いつくままに列記すると次のようなことになろう。
●ブラウン管の画面が読みにくい――長く見つめていると目が痛くなってくる。それを長年つづけてきたせいか、最近は目が見えなくなってきた。ともかくもCRTというのは人間の生理に合わないから、人は早いとこ仕事を済ませてしまおうと思うのではないか。
●時間に課金されている――われわれ家庭からホームページを見ているものには、1分いくらでプロバイダー料金や電話代がかかっている。早く切り上げないと、負担が大きくなる。
●忙しい――少なくとも気ぜわしくて、いつまでもパソコンの前に坐っていられない。
●情報を早く知りたい――ホームページ接続の目的が早く情報をつかむことにある。無駄な文章が書いてあるのは余計なことである。
●読書ではない――ホームページの上でじっくりと文学作品を読もうというような人は少ない。私も10年ほど前、出はじめたばかりの電子ブックを買いたいと思ったが、友人がそんなもので本を読む気にはなれないといったので、つられてやめてしまった。
落ち着いて本が読めるのは、やはり寝床の中とトイレの中、電車の中である。しかしコンピューターはなかなか寝床やトイレの中に持ちこめないから、丁寧に読む気にはなれない。そこで私の場合は、これぞと思われる頁はどんどんプリントすることにしている。それからプリントしたものを寝床の中に持ちこむのである。
もうひとつ蛇足を加えると、「結論から先に書く」というのはまさにその通りである。今から45年前、戸山高校の新聞部に所属していたとき記事の書き方を習ったことがあるが、そのひとつが逆ピラミッド方式だった。限られた紙面の中で、いつどこで切られても話の筋が通るようにしておくためである。
本頁もなかなかニールセン理論のようにはいかないが、簡潔で読みやすく、分かりやすい文章はホームページばかりではなく、いかなる文書でも心がけるべきことと思う。近頃は普通の本や雑誌でも、冗長でしまりのない、だらしなくふやけた文章が多くなった。
(西川渉、98.6.28)