<AW609ティルトローター>

離婚の結果

 離婚も時には良いことがある、と今週の米アビエーション・ウィーク誌が書いている。たとえ話の対象になっているのはAW609ティルトローター機で、米ベル・ヘリコプター社と伊アグスタ社が共同で進めてきたBA609の開発からベル社が離脱したことをいう。

 609の開発がベル社で始まったのは1997年。軍用の大型ティルトローター機V-22オスプレイの民間向け小型機というコンセプトであった。その計画に翌年、アグスタ社が参加し、両社の共同作業の結果、2003年に原型1号機BA609が初飛行し、やがて2機目も飛んだ。そして約70機の注文を受けたが、いつの間にかベル社の開発意欲が薄れてしまった。おそらく経営陣が民間型ティルトローターに疑問をもつようになり、開発資金の投入を抑えたのであろう。

 ところが反対に、アグスタウェストランド社の方はティルトローターの将来にますます意欲を持ち始めた。同機は垂直離着陸が可能で、高度25,000フィートまで上昇、275ノットの高速で飛行できる。ロータークラフトの将来像として、戦略的な意義が大きいというので2011年11月、ベル社から全ての権利義務を買い取った。これで、呼び名もAW609に変わり、開発のペースもはやまった。

 今やイタリアでは250人が開発に従事、まもなく米テキサス州でも150人の仕事が始まる。これで2013年に3号機、14年に4号機が飛ぶ予定である。いずれもイタリアで製造中だが、試験飛行はテキサスでおこない、先ずFAAの型式証明を取得する予定。というのも、これまで民間型ティルトローター機の型式証明基準が存在せず、ベル社とFAAとの間で基準設定のための話し合いがおこなわれていたからである。この基準にヨーロッパ航空安全当局(EASA)も合意することを、アグスタウェストランド社は期待している。

 こうしてAW609の型式証明が取得できれば、2016年前半から量産機の引渡しに入る計画。

 片親だけの子供がうまく育ってくれるかどうか。大丈夫、将来は400〜500機の需要があるだろうというのが、イタリア人らしく独りになっていっそう張り切っているアグスタウェストランド社の見こみである。もっとも、ベル社は当初、BA609について1機1,000万ドルという値段をつけていたので、それが今後どのような価格になるか。同じクラスのターボプロップ機が1機500万ドル程度であることを考えると、余り高くては買い手も少数にとどまるであろう。

 しかしアグスタウェストランド社はEUの資金援助を受け、早くも第2世代の民間型ティルトローター機について設計研究に着手している。

(西川 渉、2012.4.28)

【関連頁】AW609開発促進へ(2011.12.27)

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