航空不安

素顔を見せぬテロリスト

 

 

 先日の本頁では、空港での保安検査を取り上げました。米国ではFAAと並んで運輸保安局(TSA:Transportation Security Administration)が発足し、手荷物検査はTSAの職員がおこなうことになりました。従来のように民間の警備会社などにまかせていては信用できないということでしょう。けれども検査の係員が民間人から国家公務員になったからといって、どれほど効果が上がるのか、はなはだ疑問です。

 もともとハイジャック対策として手荷物検査だけでは決して十分でなく、必ず破られるであろうことは、これまでのいくつもの実例が証明しております。

 そこで検問を突破して乗りこんできたハイジャック犯に対して、乗員は如何なる対応をすべきか。そのやり方も9.11テロ以来180°の転換をしました。これまでの原則は犯人を刺激せず、逆らわず、言うことを聞いて要求に従うこととなっていました。ところが今後は犯人に対抗し、客室乗務員や乗客がいかなる脅迫を受けようとコクピットには絶対に入れさせないということです。

 そのためFAAはアメリカのエアラインと、アメリカに乗り入れる外国エアラインの機体には、2003年4月までにコクピット・ドアを補強するよう通達を出しております。これにより旅客機のメーカーは今後、耐空性基準に合致して、なおかつ頑丈なドアを取りつけねばならなくなりました。

 補強の内容は、犯人の持つ拳銃、ハンマー、斧などに抗して破れないようなものでなければなりません。たとえば.44マグナム銃で250発の弾丸を撃ちこんでも破れないとか、非常時に機体を破る脱出用の斧でも壊されないようにするというのです。そのため複合材とチタンを使った強化ドアが必要で、1機あたり5万ドルの費用がかかり、世界中でおよそ12,500機がその対象になるといわれています。 

 さらに、乗客にまじって航空保安官が搭乗したり、乗員が武器を携行するといった対策もとられています。これからは旅客機の中でハイジャック犯との間で撃ち合いが起こる可能性も出てきました。われわれも、飛行機に乗るときは防弾チョッキを着ける必要があるかもしれません。

 では、そんな大それた犯行に及ぶのはどんな連中でしょうか。最近読んだアメリカの雑誌に、次のような人物には気をつけようと書いてありました。

 つまり一見しておとなしく、口数の少ない、目立たぬ人が怪しいというわけですが、この真面目なのかジョークなのか分からぬ注意書は、出典が『圧制者に対抗する聖戦(ジハード)の軍事的研究』という本だそうですから、テロリストのマニュアルでしょうか。とすれば、テロリストたちは必ずしもマニュアル通りにやっていたわけではなかった。というのは、実際にワールド・トレード・センターに突っ込んだモハメッド・アタなる男は、操縦訓練学校で教官の言うことを聞かなかったり、「離着陸の訓練は要らない」と言ってみたり、途中で不意に別の飛行学校へ出て行って、また戻ってきたり、なかなか目立つ存在だったようですから。

 なるほど9月11日の乗っ取りテロを考えれば離着陸の技術は不要だったわけです。老婆心ながらパイロット・スクールは今後、「離着陸の訓練は要らない」という学生が来たら、すぐに当局へ届け出るようにしましょう。 

 こうして身もとを隠し、凶器を隠して飛行機に乗りこんでくるテロリストに対抗するのは、エアライン側も大変でしょう。以下いくつかの対策案が示してありますから、ご参考にしてください。 


(飛行前点検「昇降舵」「チェック」「方向舵」「チェック」「拳銃」「チェック」――バン)


(コクピット分離「これならテロリストも入ってこれまい」)


(「ハイジャックだ」「いいえ、あれはパイロットです」)


(「機長は拳銃もってる?」「いいえ」「じゃあ、これ貸したげるよ」――どうやって持ち込んだ?)


(テロ失敗「反対側の靴に火をつけちゃった」)


(「わが社は最も安全なエアラインです」――もはや隠しようがない)


(不安なエアライン――乗っているのは航空保安官だけ)


(機内サービス「そちらさん、コーヒーにするかい、ティーかい?」)

 (害無笑、2002.1.28)

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