中国への詫び状

 

 米国と中国の軍用機が接触した事件で、海南島に拘留されていた米海軍偵察機EP-3の乗員24人が解放され、米本国に戻った。とたんに米側の態度が一変し、「乗員が解放されるまでは」と低姿勢で耐えてきたブッシュ大統領が4月12日の乗員帰還歓迎声明で、接触事故の非は米側には一切なかったと潔白を宣言、米中協議では中国側に「厳しく質問せよ」との大方針を示したと伝えられる。

 ところが中国側はメンツだけを重んじるばかりで、事実認定はさておき、米側に謝まれの一点張り。米側がソリーにベリーをつけた途端に米国の陳謝があったとして乗員を解放した。名誉を忘れたメンツだけだから、ベリーの一語程度の重みしかなかったのである。

 米側は「ベリーソリー」とは言ったものの、内心は憤懣やるかたないところがあり、国務長官は謝まったわけではないと言い、解放された乗員から詳しい事情を聴くや、接触の原因とその後の対応で非は中国側にありと一斉に攻勢に転じた。

 13日の国防長官によれば、この事件には三つの争点があるという。第1に、スクランブルによって接触してきたのは中国軍戦闘機の方で、発生場所は公海上空だった。第2はEP-3が緊急着陸をする際、領空侵犯があったというが、実際は25〜30回の「メーデー」(救難信号)を発した。たしかに機首がなくなり、プロペラが欠けた状態で、よくまあ無事に着陸できたものと思う。

 第3に乗員の抑留問題で、このような戦闘状態でもない場合に「乗員を抑留し機体を留め置いた国はない」と中国側のやり方を非難した。たしかに中国側のやり口は捕虜のような扱い、というのが言い過ぎならば人質扱いであった。そして未だに機体は返還されていない。

 これに対し中国側は、ブッシュ大統領らが乗員帰還後「事故発生に何ら責任はない」とし、中国軍機の「攻撃的行動」を問題としていることに「強い不満」を表明、「米政府の高位当局者が最近、多くの無責任な発言をしている」と批判した。

 こうした米中の応酬について、どちらが良いとか悪いとかを言うつもりはないが、中国の戦闘機も機体が接触するまで近づかなくてもよさそうなもの。日本でも第2次大戦中、本土防衛を任務とする陸軍の戦闘機が空襲のために飛来したB-29に体当たりして却って墜落した例があるが、今の中国にはあれに似た悲壮感でもあるのだろうか。

 水上警察の高速艇が沖合をゆく巡航船の臨検をしようとしてぶつかり、そのまま沈んでしまったとしたら、どちらが悪いと思うか――あるアメリカ人の言葉である。

 しかし中国側があんまり謝れ謝れというものだから、アメリカ側も人質を取り戻すためには取り敢えず謝ろうということになり、何種類かの謝罪文が起草されたらしい。そうした草稿のひとつを、このほど極秘のうちに入手した。きわめて丁重な謝罪文で、「アポロジャイズ」とか「ソーリー」という陳謝の言葉が1枚の書簡の中に15回も出てくる。これでは謝りすぎではないかというので別の草稿が正式文書として使われたようだが、歴史上の一文献として、ここに記録しておきたい。

 南京問題、慰安婦問題、教科書問題などでしょっちゅう謝れと言われている日本政府にとっても、大いに参考となるはず。とりわけ、病気治療のために来日を希望している李登輝前台湾総統の入国について、中国の顔色をうかがいながら決断を下せぬ気の弱い外務大臣閣下には、これにならって北京政府に平謝りに謝ってもらいたい。謝っちまえばこっちのもので、足のふるえもいくらか治るであろう。

中華人民共和国総書記 殿

謹啓
 アメリカ合衆国は中華人民共和国に対し、のろまでもたもたした我が国電子偵察機が貴国の未熟で短気な戦闘機パイロットに、国際空域を飛行中ぶつけられたことに対し、陳謝の意を表します。

 われわれは、合衆国に対して核ミサイルの狙いを定めている貴国の動きを監視するため、偵察機を飛ばさなければならなかったことについて申し訳なく思います。われわれは、貴国のパイロットが緊急発進の際の国際規則に従わず、航空機の識別能力に劣るためEP-3がプロペラ機であることに気づかず、自らの機体を目には見えないプロペラ回転面に乗り入れてきたため、当方のプロペラで貴国の虎の子ジェット戦闘機を切り裂いてしまい、すいませんでした。

 われわれは、貴国の戦闘機パイロットが訓練不足のために機体から脱出(ベイルアウト)することもできず、不時着水をしたのちもサバイバル装備不足のために長く生存できず、貴国海軍の発見に至らなかったことについて申し訳なく思います。念のために、貴国がわれわれの捜索救難の支援申し出を拒絶したことを付記しておきます。

 われわれは、貴国が国際規則を破り、貴国パイロットによって生じた緊急事態の中、もう1機の貴国戦闘機の誘導のもとに貴国飛行場にかろうじて緊急着陸した機体と乗員を理由もなく拘留したことについて遺憾に思います。貴国関係者が国際規則を破り、合衆国偵察機の機内に許可なく立ち入ったことについても遺憾です。

 われわれは、今や世界中が貴国を自由と真実と民主主義の敵であるとみなすに至ったことを、まさにその通りであるとはいえ、陳謝いたします。われわれは、貴国がみずからを世界で3番目の強大な国家であると思いこんでいることについて申し訳なく思います。念のために、貴国労働者の平均賃金は1日10セントであります。

 われわれは、この事件により貴国のメンツを失くさせてしまったことについて陳謝いたします。われわれは、貴国がソビエト連邦の崩壊から何も学ばず、民主主義や資本主義を取り入れようとせず、同じ民族でありながら小さな台湾ほどの経済発展も見られないことについて申し訳なく思います。

 われわれは近い将来、貴国に対し軍事的な報復をすることになると思いますが、これについてもあらかじめ陳謝しておきます。それにも増して、貴国人民が無能な指導者の支配下にあって犠牲となっている事態に関し、まことに申し訳なく、心から陳謝いたします。

謝謝
アメリカ合衆国大統領(署名)

(害無笑、2001.4.17)

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