<小言航兵衛>

日中すれちがい

 『日本と中国は理解しあえない』(日下公人・石平、PHP、2008年4月17日刊)は両国の考え方の違いをみごとに剔抉(てっけつ)した好著である。しかも思いがけない視点から話が出てくるので大変おもしろい。今その内容を詳しく書き写している暇がないので、ここでは中国共産党の要人に関する論評だけを要約しておこう。

毛沢東

 27年にわたって中国を統治した。その間、よく「大公無私」という言葉を使った。「私」を殺して「公」に尽くせということだが、しばらくして人びとの気がついたことは毛沢東こそ私利私欲のかたまりであった。その反動でケ小平の時代になると、共産党幹部を筆頭に誰もが「私」に尽くすようになる。

周恩来

 きわめてしたたかな男で、さすがの田中角栄もコロリと騙された。周恩来に対する日本人の印象は、教養があり思いやりがあって、中国文化の体現者だと思っている。しかし実は、中国人の誰もが知っているように、中国共産党のスパイと秘密警察を牛耳るボスで、暗殺組織のトップでもあり、最大の業績が暗殺だった。

 毛沢東支配下の共産党の中で60年も生きてきたのは、周恩来自身が鬼のような男だったからである。

ケ小平

 1989年の天安門事件で、鎮圧のために何千人も殺した。しかし、これは中国の最高国家機密だから絶対に公表されることはない。ケ小平とは逆に、胡耀邦と趙紫陽は学生たちを救おうとして幽閉され、処分された。胡耀邦は歴代指導者の中では最も親日的で、チベットに対しても謝まらなければならないなどと言っている。そういうところが粛清される原因となったのであろう。こうした天安門事件によって、中国共産党は人民の信頼を失うと同時に、国際的にも孤立した。

江沢民

 天安門事件による中国の落ち込みを回復するため、日本の天皇陛下を利用した。それに荷担したのが宮沢政権だが、一方的に利用されただけで中国からは何の見返りも得ることはできなかった。そのとき内閣官房長官をしていた河野洋平などは「江の傭兵」といわれたほどで、今も衆院議長席にすわるデクの棒に過ぎぬことはご承知の通り。

 そして彼らが用済みになると、江沢民は日本叩きに転じる。すなわち1990年代後半から国是、国策として反日教育を推進した。その結果、2008年初めには中国全土で206ヵ所ほどの反日記念館が存在するに至る。代表例は北京の「人民抗日戦争記念館」、南京の「大虐殺記念館」など。

胡錦濤

 中国は共産党の独裁支配下にある。したがって誰もが共産党の中で出世することを欲するが、「出世したらもう共産主義はどうでもいい。いちばん共産主義を信じていないのは胡錦濤たちです(笑)」

 かつて中国共産党を壊滅させようとしていたのが蒋介石だった。そこへ日本軍が入ってきて蒋介石をやっつけた。それで共産党は助かる。毛沢東ですら日本軍に感謝していたほどで、「だから靖国神社に一番熱心に参拝しなければならないのは胡錦濤です」

 しかるに胡錦濤は、小泉首相の靖国神社参拝を「バカの一つ覚え」みたいに非難してきた。その結果、逆に日本国民の意識も感情も嫌中になってしまった。これは「中国の典型的なバカ外交ですよ」


手抜き工事の万里の長城

 さて、こんな連中に率いられてきた中国で、あと3ヵ月で北京オリンピックが始まる。すると何が起きるだろうか。中国人はスポーツにルールがあるのは知っているが、それを守ると損をすると思っている。したがって、たとえば2008年2月の重慶で演じられた日中サッカー戦のひどいラフプレーのように、ルール違反、喧嘩、殴り合いなどがいくらでも起きる。観衆も扇動に乗って日本選手や日本人応援団に向かって大声でののしり、暴力に及んだりするだろう。

 あるいは、相手の選手が試合に出る前の晩、その部屋のクーラーを故障させ、8月の北京で睡眠不足に追いこむといった手を使うかもしれない。クーラーの故障の原因はむろん誰にも分からない。今の中国にとって、外国とのスポーツはまさに戦争であり、勝つことが目的である。インチキでも勝てばいいというので筋肉増強剤なども服用する。彼らは勝つことで、中華民族がいかに素晴らしいかが証明されると考えているのだ。

 第2の予測は、北京オリンピックの後、北京の不動産が暴落するであろう。すなわち今のマンションブームにもとづく不動産バブルがはじけて、アメリカのサブプライム問題と同じことが起こる。その結果、市場原理を装っていても実際は政治権力によって動いている経済活動が狂乱状態となり、一気に崩壊する。

 そんなとき、中国共産党は政権を守るために何をするか。これが第3の予測だが、戦争である。

 人民の気持ちをまとめ、経済統制をするには外敵をつくるのが常道である。しかも、なるべく弱い敵がよい。したがって戦争の相手としては台湾が考えられるが、台湾にはアメリカがついているので、おとなしい日本を選ぶだろう。その小手調べに尖閣列島へ仕掛けてくる。そのうえで日本の反応を見ながら沖縄へ攻めてくるに違いないと本書はいう。

 中国が日本の軍備を牽制しつつ、自分は莫大な金を費やして強兵に努めているのはそのためで、日本がうかうかしていると大虐殺、大破壊を受けて、チベット同様の「倭族自治区」になってしまう恐れがある。


「チベット問題を世界中に知らしめてくれて、謝謝」

 最後に口直し。中国人のすばらしさを神話の時代にさかのぼって証明する話が『北京大学てなもんや留学記』(谷崎光、文芸春秋、2007年6月15日刊)に書いてあった。

 天地創造のとき神様は小麦粉をこねて人間をつくろうと思いました。人の形をオーブンに入れて焼いたら、最初は生焼けで真っ白。これが白人の祖先です。次は焼きすぎて真っ黒になった。これが黒人の祖先です。最後にうまく焼き上がったのが黄色人種。だから黄色人種が一番優秀なのです。

 それなら日本人だって黄色人種だなどと不遜なことを考えてはいけない。華夷思想の中国人にとって、日本人などは東夷、すなわちヒトではなくてムジナに過ぎない。黄色人種といえば中国人以外にないのである。

 その黄色人の親玉が明日、日本にやってくる。

(小言航兵衛、2008.5.5)

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