<小言航兵衛>
抵抗勢力リスト 『抵抗勢力は誰か』(屋山太郎著、PHP、2002年6月5日刊)は、著者お得意のケンカ評論だ。ケンカの相手は表題が示すとおりである。ひるがえって小泉改革に声援を送っているわけだが、肝心の小泉君本人が最近いささか腰くだけの感があり、先日のダービーで勝馬を当ててやや元気を取り戻したかに見えるものの、国会答弁は依然はぐらかしたようなもの言いがおさまらず、なかなか拍車がかからない。
これでは相手を説得できず、向こうも納得しないだろう。もっと腰を据えて、抵抗勢力の主張を正面から受けとめ、がっぷり四つに組むつもりで横綱相撲を取って貰いたい。今のままでは改革はなかなか進まないだろうし、郵政関連法案や有事法案など、仮に成立したところで形だけで魂が入らない。これでは法案に込められた本来の目的が実現するかどうか、疑わしいことになってしまう。
ただし著者は「小泉首相のいう『構造改革』の中身は、実はまだ体系的に説明されていない。小泉氏自身の頭の中ではまとまっているようだが、それを一挙に吐き出すと『抵抗勢力』が猛然と反発して、できるものもできなくなると、小泉氏は考えている。……骨格を露骨にしたのでは党内は百家争鳴、収集がつかなくなる」と良い方へ解釈している。本当にそうならば良いのだが。
さて、本書の副題は「改革を阻む亡国の徒リスト」となっている。どんなリストが出てくるのかと楽しみにして読んだが、リストらしいものは最後まで出てこなかった。まさか、リストの綴じこみを忘れたわけではあるまいし、この本自体がリストということなのだろうか。私には副題の意味がよく分からなかった。
そこで、この本を読み返しながら、小言航兵衛なりに抵抗勢力のリストをつくってみた。その結果は下表に示すとおりで、これが日本を滅亡にもってゆく諸悪の根源の一覧である。説明は本書からの引用と要約だが、航兵衛の意見もつけ加えてある。
橋本龍太郎
「守旧派の権化」。今まさに抵抗勢力の総大将として小泉改革に立ちはだかっているが、もともと参院選に惨敗して政権を交代させられ、総裁選でも小泉氏に大敗した。そんな男が小泉氏に弓を引くのは笑止である。この男のやったことは「特殊法人を分類して喜んでいただけ……潰した公団、公庫、事業団は一つもない……議員は既存の収益構造を守ることを政治と心得ている」
野中広務
橋龍と共に自民党の行革推進本部の最高顧問に収まり、にらみを利かして、郵貯は絶対に存続させると言っている。郵貯を残すことは財投を残すことで、特殊法人を養うことである。「二人のいうことは筋が通らないばかりか、国家改造の哲学がまったくうかがえない」
宮沢喜一
――
森喜朗
――
山崎拓
小泉総裁を支える幹事長でありながら、1か月前に噴出した女性スキャンダル問題の対応が曖昧で、その後の本来の業務にも気が入らず、政策推進の足を引っ張る結果となっている。その気持ちとは裏腹の抵抗勢力になってしまった。
古賀誠
――
青木幹雄
――
荒井広幸
聞けば郵便局長の倅とかで、だからあんなに郵政法案に反対するのである。個人的、家庭的な利害関係を国政の場に持ち出すわけだから、政治家としての倫理も理念もあったものではない。テレビカメラの前では「絶対に通しません」などと発言し、それを誰も咎めようとしないのは、いったいどういうことか。
福田康夫
面従腹背。小泉首相が若いときに親父さんの世話になったからといって、その倅を重用するのは、われわれ市井人なら美談かもしれぬが、一国の宰相としてはもっと理性を働かせるべきだ。個人情報保護法案に関して、官僚はそもそも悪いことはしないなどとふざけた発言も聞いた。皮肉な逆説のつもりかもしれぬが、ニヤッと口をゆがめてみせても、文字になれば表情は見えない。評論家ならともかく政治家の発言としては見過ごせない。今の官僚どもの権力をかさにきた悪事、悪行、悪逆をどう見ているのか。さらに5月31日のニュースでは日本に対するムーディーズの格付けが下がった問題について、あれは民間会社だから視野がせまい、木を見て森を見ずだと語っていたが、この男の「官尊民卑」は度し難いものがある。
亀井静香
「利益誘導は政治家の義務」と言ってはばからず、どうしようもない守旧派。その「発想は、時代の変化にどう対応するかではなくて、旧来の陋習をいかに守るかである」。財政出動の必要を説いているが、これは雑音である。日本航空がアルバイト・スチュワーデスを募集しようとしたときも、「もし実行するなら路線を減らす」と脅したが、民間企業の経営に官が口を挟むからには、日航が赤字になったら国が埋めてやる義務が生じるであろう。昨日のことだが、民主党からはとうとう死刑宣告を受けてしまった。
中山正暉
住民投票は民主主義の誤作動というが、この人は民主主義の根本を知らず、逆の理解をしている。「住民の直接投票を何度もやるのが大変だから代議制の議員で代替しているのであって、代議員の意思と住民の意思が食い違ったら、代議員の方が誤りだと考えるべきだ」
関谷勝嗣
自滅の道を進めてきた。
松岡利勝
――
鳩山由紀夫
小泉改革に賛成するのか反対するのか、どちらにしても弱々しく、国民に訴える魅力がない。野党第1党の党首として、この男がしっかりしないものだから、自民党も勝手な真似ばかりして、改革が進まないのだ。
冬柴鉄三
民主党と共に、国籍のない永住外国人に地方参政権を認める法案を出すなどは、その「良識を問いたい」
公明党
自民党と民主党による2大政党へ向かいつつある流れの中で、おのれの存在感が薄れ、議席が減るのを防ぐために中選挙区制の復活を狙っている。党利党略がむき出しで、背後にある宗教団体の恐ろしさを感じる。「世論に従って動く」といいながら、その世論は創価学会という小さなサークルの世論にすぎない。公明党の打ち出した地域振興券も「バカげた政策」だった。うかうかしていると「議席をもたない池田大作氏の意向ひとつで政治が動かされる。これは議会制民主主義の危機だ」
自民党
所属議員400人のうち395人は特殊法人の廃止・民営化に反対している。
163に及ぶ特殊法人、認可法人
これらの特殊法人に天下った官僚たちは、2〜3の法人を渡り歩いて、合計3億円もの報酬と退職金をフトコロに入れる。しかも特殊法人は税金の無駄遣いをしているだけではない。「本来、民間がやるべき分野に官業がしゃしゃり出て、民業を圧迫している」。今の不況の一因もここにあるのだ。
日本道路公団
プラス首都高速、阪神高速、本四連絡橋の各道路公団など、交通需要があろうとなかろうと莫大な税金を注ぎこみ、熊しか通らぬ道路をつくりつづける。
建設会社
世界中で建設企業は200万社だが、そのうち60万社は日本に存在する。日本の公共事業が如何に甘い蜜となっているかが分かるし、工事費の3%は政治家に環流している。
旧郵政省
全国に120もの温泉ホテルをつくって、ことごとく赤字を出したのにも懲りず、次は簡保加入者福祉施設、レクリエーションセンターなどをやたらにつくっている。
旧厚生省
健康保険保養所、健康づくりセンター、年金休暇センターなどを全国につくりまくっている。
旧労働省
全国勤労者青少年会館=中野サンプラザやスパウザ小田原といったホテルの類を、これまた全国に展開した。これら郵政、厚生、労働の官業に共通しているのは、すべて大赤字ということだ。
郵便局
その窓口を通じて集めた郵貯は1998年6月末で244兆円を超えた。東京三菱銀行の預金額50兆円の5倍で、今や第2の中央銀行の様相を呈している。
農水省
下手で愚鈍な保護政策によって、日本農業を滅ぼしつつある。「バカの最たるものは農道空港の建設だろう」
公正取引委員会
談合やカルテルを摘発するという本来の任務を果たそうとしないから、最近はムネオハウスに見るような官製談合もひどくなってきた。JALとJASの合併も形だけは疑問を出したが、結局は認めて、せっかく進みかけた航空自由化の効果をフイにした。
国家公安委員会
続発する警察不祥事に何ら有効な手を打つことができず、警察官僚の上げてくる処分案に黙ってハンコを押しながら、高額の報酬を受けている「月給泥棒」
事務次官全員
今の行政形態は「議員内閣制」というが、実態はどうか。「与党の中から首相と閣僚が選ばれ、官僚体制のうえに君臨するという、一見、議会制民主主義の姿をとっているが、実態は官僚内閣制である」。たとえば事務次官会議だ。毎週閣議の前日に開き、議題を設定し、閣議ではそれ以外の議題は討議されない。何か発言しても「不規則発言」として扱われる。その「次官会議にかかる案件は関係省庁の課長間で詰められ、審議官クラスで調整したものである」
榊原英資
大蔵省財務官当時は「日本には日本の銀行文化がある」などとふざけたセリフで日本の銀行制度を賛美していた張本人。最近は「構造改革が必要」と言っているようだが、腹の中は何を考えているか分かったものじゃない。時代に迎合するような変節者は余り信用しない方がいい。
150の銀行に天下った120人の大蔵・日銀幹部
――
日本医師会
補助金を貰っているが、その金は「医師のフトコロを通さずに、ストレートで政治資金に回っていることが判明した」。これによって政治力を発揮し、議員に脅しをかけ「医療制度の改革に背を向け、現状を墨守しようとしている」。そのやり方には、患者の苦しみや生命に対する配慮のかけらも見られない。
日本土木工業会
官僚とグルになって全国の土木事業を食い物にしてきた。
東大工学部土木工学出身者
「建設省、農水省、ゼネコンを一体とした帝国を築いて、そこの教授の意向に逆らえば役所での昇進もおぼつかない」。卒業生は毎年50名。
御用学者
有識者の意見も聴かなければといって「400もの審議会をこしらえているが、こんなものは御用学者を集めただけの隠れミノである」
唐津一
第一級の製造技術を持つ日本は、産油国が油資源を持っているのと同様、永久の人工資源を持ったのだと、本気で説いている。これが幻想であることは半導体の過剰生産、韓国・台湾の追い上げを見ればすぐ分かる。
日教組
国歌と国旗に反対しつつ、子どもには社会主義教育をつづけてきた結果が、今のようなバックボーンのない日本国をつくったのである。
連合
職業紹介事業の自由化に反対し、今になってリストラされた失業者の職探しを不自由なものとして苦しめている元凶。自称「労働者の味方」というが、聞いて呆れる。
農民
長年にわたって族議員や農水省に働きかけ、最近では中国からの安い農産物輸入を禁じるセーフガードをかけて貰ったりしたが、こうした保護政策の結果が逆に我が国農業の衰退をもたらした。
江沢民
小泉首相の靖国参拝について「許すことはできない」などと言ったようだが、なぜ中国に他国の首相を下知する権利があるのか。
田中真紀子
大臣としての資質に疑義があるのはもちろん、そのトンチンカンな国会答弁や虚言癖を見ていると精神鑑定か精神分析の必要があるのではないか。
ワイドショーに騙されるオバさんたち
田中真紀子に拍手を送り、それを更迭した小泉首相を逆恨みするような「オバさんの正義」は小泉改革の行き足を留める。
かくて小泉君の行く手に立ちふさがる抵抗勢力はとてつもなく大きい。しかし国民は彼の狂気に期待している。その狂気によって財投廃止、郵貯廃止(民営化)、特殊法人廃止をがむしゃらに推進し、中央集権的社会主義国家から脱却し、地方分権を徹底し、所得税の一部を地方税に切り替え、日本もふつうの国へ向かう道筋をたどらなければならない、というのが著者の結論である。
「特殊法人の廃止と地方分権の二つをまっとうすれば、日本は蘇る」。これによって世界最高の生活費も払い落とすことができよう。すべては「消費者のため」という、その一点から考えよ。
今、政府も国民もサッカーなんぞにうつつを抜かしている時ではないのである。
(小言航兵衛、2002.5.31/加筆2002.6.1)