外交特権に巣くうシロアリ

 

 

 

 20年以上も前のこと、さる会社のえらい人に会ったとき、自分の甥が外交官をしているという話になった。そして東南アジアのどこかの国の赴任を終って戻ってきた際、立派な仏像を沢山持ち帰ったというのである。

 本当に立派だったかどうか「なんでも鑑定団」に出さなければ分からぬが、金額だけは高かったらしい。それに外交官だから、当時の羽田空港の税関もフリーパスである。純真な私は「へー、偉いもんだ」と感心して聞いていたが、今から思うと彼らが治外法権の大使館の中で何をしていたのか分かったものではない。

 外交特権によって行動の自由がきき、機密費によって金がふんだんに使えるとすれば、これはもう笑いが止まらぬであろう。難かしい外交官試験に受かったんだから当然だとばかりに、地球規模で我が世の春を謳歌しているにちがいない。

 

 入れ替わり立ち替わりでやってくる外務大臣も、顔は怖いが肝っ玉の小さい御仁を初め、みんなお飾りみたいなもの。前の外相などは「あの女(ひと)は口撃力があるから」と言ったとか。政治家が大臣の立場にありながら官僚のご機嫌を取るのだから情けないというか、だらしないというか、お話にならない。

 政治家がそんなていたらくだから、厄人たちはシロアリのように外務省の根太を食い荒らし、国費をしゃぶり、機密費問題に見るように、外交特権を私物化するようになってしまった。

 そこへ何たることか、女大臣が乗りこんできて、特権の実態をテレビの前でばらし始めた。取り澄ました外交官として、もしも恥を知っていれば、これ以上の恥はないであろう。体裁を取り繕うひまもあらばこそ、世界中のもの嗤いになり下がったのである。これでは赴任先の国で、相手が外交官として遇してくれるかどうか。

 記者会見の終わりには、大臣も「今日は、ほんのさわりでございます。あとは後日」などと言っていたから、次はきっと機密費の内情がばらされるにちがいない。外務省の中は外交そっちのけの大混乱におちいってしまった。

 

 それでも彼らは、石原慎太郎知事の就任時に抵抗した東京都庁の役人や、田中康夫知事を名刺を折り曲げて迎えた長野県庁の役人のように、田中真紀子外相に対しても「法律が分かっているのか」などと脅しをかけたらしい。外相みずから「外務省は恐ろしいところでございます」とばらしてしまった。

 役人は権力を持っているから何かというと人民を脅かしてきた。大抵の人民はちょっとすごまれると「へ、へー」となる。むろん小生も小さくなっている一人だが、さすがに今度の大臣は別で、テレビの前だろうとどこだろうと秘書官を叱りとばし、書類をぶん投げ、マスコミに向かって何でもかんでもばらしてしまうから手に負えない。

 外務官僚は「本省にいるときはサラリーマン、(海外へ)出ると特権階級」とか「(外務省には)どす黒い利権の問題もある」と発言して、真っ向から外務省の一連の不祥事に対して関係者を再処分する意向を示した。

 国会では「どす黒い利権とは何か」という質問も出た。具体的な答えはなかったようだが、私の見るところ多額の金を海外にばらまいているODAなる仕組みも、政治家がからんで黒い利権になっているのではないのか。外務省に強い影響力をもち、北方4島は2島でいいなどと言っている政治家の顔をした利権屋もあやしいものである。

 なにしろじゃじゃ馬が大臣になったのだから鬼に金棒。この際は存分に金棒を振り回して、役所に巣くうシロアリどもを退治し、腐った根太を取り替えてもらいたい。

(小言航兵衛、2001.5.10)

 (「小言篇」目次へ (表紙へ戻る