なぜヘリコプターを使わないのか

 

  
(御岳は別名トカラ富士ともいわれ、200年ほど前に大爆発した)

 6月24日の夕刊で、鹿児島県トカラ列島に位置する十島村が石原東京都知事に抗議文を送ったという記事を読んだ。抗議の内容は、十島村の中之島御岳の山頂(標高979m)に向かって立派な道路建設がおこなわれているのを見た石原知事が「地方交付税の無駄遣い」と批判したことに対するもの。十島村は村議会で、この道路はテレビの中継基地建設のためで、無駄遣いではないという決議をしたらしい。

 このやり取りを見て、新聞は「東京vs.地方の論争にも発展しそうな気配」とあおり立てている。道路工事の費用は1億8,000万円、工事期間は7年間だったという。

 しかし私ならば、山頂のテレビ中継基地をつくのに「なぜヘリコプターを使わないのか」と言いたい。

 テレビ中継基地を建てる資材の重量がどのくらいか、今すぐには分からないが、土台の生コンも含めて仮りに1,000トンくらいあっても、ヘリコプターならば10日ほどで山頂まで運んでしまうだろう。天候を考えても1か月もあれば十分ではないだろうか。

 そのうえで、運び上げた資材を山頂で組上げるわけだが、これにもヘリコプターをクレーン代わりに使うことができる。したがって工事はせいぜい半年くらいで終わるのではないか。とすれば、7年という期間は一挙に20分の1くらいに短縮される。費用も、ヘリコプターの飛行料金は道路工事費の2割程度ですむであろう。

 現にこれまで、テレビや電話のためのマイクロ波の中継基地は、ヘリコプターを使ってあちこちの山頂に建設されている。最大の理由は、いうまでもなく費用が安く、工期が短くてすむからである。おまけに、ヘリコプターを使えば山腹を削ったり樹木を伐採したりする必要がないから、自然環境の保護にもなる。また、もしも工事現場で何かが起こって怪我人が出たような場合、ヘリコプターがあれば直ちに最寄りの医療施設、もしくは離島から本土の病院へ迅速な搬送ができる。

 したがって道路工事がテレビ中継基地のためだけというのであれば、石原知事の見方に軍配を挙げざるを得ない。

 しかし、その一方で、十島村がわざわざ道路をつくったのは、別の理由があったのではあるまいか。たとえば地元住民に対する雇用創出である。中継基地の建設を認める代わりに、地元にも何らかの潤いが欲しいということだったのかもしれない。それならば十島村も、あの道路工事は不況対策の一環であるということを明らかにすべきであろう。

 また、富士山の5合目まで立派な道路ができたように、けわしい火山の頂上まで道路ができれば、観光客誘致の手段にもなる。このあたりの説明があれば、離島の道路が無駄か否かという経済効率の論争だけではなくて、別の納得が得られるにちがいない。

 現に、石原知事は知ってか知らずか、東京都下にも、山頂に至る立派な道路のついている火山島が存在する。

(小言航兵衛、99.6.25)

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