<米大統領機>

28機の調達に疑問

  

 先日ホワイトハウスを訪ねた麻生首相がそこで聞いたかどうかは知らぬが、新しいオバマ政権に変わって、大統領専用ヘリコプターが28機も要るのか。そんな疑問が出ているらしい。

 アメリカ大統領の新しい専用ヘリコプターVHー71は、今年秋からマリーン・ワンとして実用になる予定。これはアグスタウェストランドEH101を基本として6年前に採用が決まり、所要の改修と飛行試験が慎重におこなわれてきた。

 しかし未曾有の経済危機の中で、莫大な費用をかける必要があるのかどうか。一方ではテロの脅威もつづいており、簡単に判断することはできない。

 新しいVH-71は現用機にくらべて速く、遠く、安全に飛ぶことができるばかりでなく、敵のミサイル攻撃をかわす能力がある。しかし、それだけにコストがかかり、去る1月末、米国防省から議会への通報では、当初61億ドルの契約金額は今や112億ドルまでふくれ上がってきた。そのため予算の増額を求めるというのだ。

 この計画はテロ対策に躍起となってきたブッシュ政権の置きみやげのようなもので、新しいゲイツ国防長官も代替案の検討を始めた。もっとも、テロによってホワイトハウスが攻撃されるようなことがあれば、それは大統領の権威の失墜、合衆国の崩壊にもつながりかねない。

 現在の大統領専用ヘリコプターは、シコルスキーVH-3Dが11機、VH-60Nが8機で、中には製造後35年という老朽機もある。

 これらの1機に大統領が搭乗すると、その機体が「マリーンワン」という無線コールで呼ばれることになる。通常はホワイトハウスからアンドリュース空軍基地、もしくはキャンプ・デービッドへ大統領を乗せて往復するのがマリーンワンの役目である。

 そのマリーンワンに1機か2機の随伴機がつき、補佐官や閣僚が乗ったり、おとりの機体になったりする。また大統領が外国へゆくときは、その国へ輸送機で送りこまれ、近距離の移動に使われる。

 このヘリコプターが2002年のこと、機械的な故障で大統領の乗ったまま飛べないことがあった。そこから、もっと進んだ専用機を導入する必要があるということになり、2005年ロッキード・マーチン社と国防省との間で契約が交わされた。表向きはアメリカ製だが、実質はイギリスとイタリアのメーカーが開発したEH101である。

 長い伝統を破って外国製の航空機が採用されたのは、当時イラク戦争にイタリアと英国が協力したことに対するブッシュ大統領のお返しと受け止められている。もっとも、ブッシュ政権は、それを否定していたが。

 採用になったEH101は、きわめて複雑な改修がなされた。14人乗りの座席は厳重に装甲され、機体には膨大な無線設備とミサイル攻撃を避けるためのジャミング装置が取りつけられた。また核爆発の電磁的影響を打ち消す装備などもある。

 こうした装備内容が余りに複雑なため、最初から完全な機体をつくることができず、初めの5機は装備内容をやや簡便化したものになる。そして残り23機が完成機として、大統領、副大統領、国防長官その他の閣僚を乗せて飛ぶ。

 これらのヘリコプターは2010年末までに納入される計画だったが、2007年末、国防省は開発作業の一時停止を指示した。第2段階の開発コストが余りに高くなりすぎたためである。

 というのは1機あたりの価格が4億ドルにも当たるためで、現用エアフォースワンのボーイング747ですら最後の2機と格納庫の建設費を加えても、1990年の当時4億1,000万ドルしかかかっていない。

 議会の中には「VH-71は時間と税金と人材の無駄であった」として、契約を白紙に戻し、再入札をすべきだという意見も出ている。

 ともあれ、最初の5機についてはロッキード・マーチン社で製造と組立が着々と進んでいる。


ホワイトハウスの芝生から大統領の乗ったヘリコプター
が離陸する光景は、米権力の中枢を示す象徴でもある。

 【関連頁】

   欧州生まれのUS101(2005.5.1)

(西川 渉、2009.2.25)

 

(表紙へ戻る)