<野次馬之介>

パラシュートのついた飛行機

 

 1週間ほど前の本頁「軽タンデム・ヘリコプター」に、飛行機にパラシュートをつける話があるが、実際の例はあったような気もするけれどよく憶えていないと書いたところ、かねてご厚誼をいただいている松尾晋一さんから、パラシュートをつけた軽飛行機に関する報道についてご教示があった。

 馬之介の頭の中にぼんやり残っていたのがその飛行機で、教えていただいた記事は2つ。いずれも今年になってからのもので、早い方の1月11日付け「サクラメント・ビー」という新聞には次のようなことが書いてある。

 米シーラス・エアクラフト社ではSR20、SR22、SR22Tという3種類の軽飛行機をつくっている。いずれもレシプロ単発機だが、SR22Tはエンジンにターボチャージャーが付いている。座席数は3〜5席。

 これらの飛行実績は、すでに500万時間を超えており、この間51人がパラシュートによって救われたという、ちょっと信じられないような話である。


パラシュートで降下する

 ところが、その2日後の1月13日のカナダCTVニュースのサイトでは、昨年9月25日カナダのカルガリーに近いところに軽飛行機が墜落、3人が死亡した。機種はSR22で、非常用のパラシュートが開かなかったためという。カナダ運輸安全委員会(CTSB)の調査では、同機は速度を落とし過ぎて失速し、きりもみ状態(スピン)におちいって地面に激突したらしい。

 そこでCTSBが疑問としているのは、なぜ失速するまで速度を落としたのかということ。もうひとつは機体の残骸から見て、パイロットがパラシュートのハンドルを操作しなかったらしいということ。スピンがはじまったときの高度は充分に高かったはずで、ハンドルを引けばパラシュートが開いて助かったのではないかという。

 もっとも、その飛行機は事故当日の朝、購入したばかりであった。したがって操縦者が不慣れだったことが考えられる。また購入2日前に引渡し前の点検をしているが、そのとき高度計に不具合があったらしく、24時間検査が必要とされた。けれども、実際には検査がおこなわれてなく、また補助バッテリーの期限も過ぎていたとか。

 そこで馬之介が思うに、点検整備や部品交換を規定の通りにしていなかったのは、航空機の取り扱いとしてまことに粗雑だが、これらの問題がスピンに入った原因、パラシュートを開かなかった理由につながるかどうかは分からない。ただし、きりもみ状態におちいってしまい、操縦者がそこから脱け出す方法を知らなければ、パラシュートのハンドルを引くのは難しかったであろう。

 では、パラシュートはどのようにして開くのか。下の図に示すように、パイロットがハンドルを引くとロケットが飛び出す。ロケットは大直径のパラシュートを機体から引っ張り出し、機体の向きがどうなっていようと、たとえきりもみ状態であっても、また裏返しの背面姿勢であっても開くことができる。開き方はゆっくりしていて、機体は最終的に安定した水平姿勢を保つ。試験飛行の結果では、開傘から8秒くらいで前進速度がゼロになり、降下率は毎分500mくらいに落ち着く。

 

 シーラス社の報告によると、上の新聞とはやや異なるけれども、2012年1月10日までに同社軽飛行機のパラシュート操作がおこなわれた例は32件であった。そのうち28件は設計通りに開き、53人が生還し、1人が死亡した。残り4件はうまくパラシュートが開かず、5人が死亡し、2人が重傷を負ったという。

 パラシュートが開かなかった理由は、2件が300ノットの高速で操作したためで、これは開傘制限速度の2倍にあたる。また次の1件は高度が低すぎて充分に開く暇がなかった。目撃者の話では地上15〜60mくらいだったらしい。そして最後の1件はロケット発射の向きが異常で、パラシュートを引き出せなかった。この発射の異常については、その後改修がなされた。

 ところで、日本航空の747SRが方向舵の操縦ができなくなって御巣鷹山に墜落した当時、1985年のことだが、あのジャンボ機は40分以上も空中をさ迷っていたのだから、パラシュートがついていれば助かったにちがいない。これからは飛行機にパラシュートをつけてはどうかという新聞の投書を読んだ憶えがある。300トン以上の機体を支えるのだからよほど大きなパラシュートが必要で、とても現実的ではないと思ったが、サイラス軽飛行機のパラシュートが多くの人を救った実績からすれば、むろん軽飛行機と旅客機では大きさや重さからして同じように論じることはできないけれども、ひょっとして有効かもしれない。

 ロシアでは今も、宇宙飛行士の帰還にあたって、パラシュートを使っているではないか。

(野次馬之介、2012.1.16)


シーラス軽飛行機

【関連頁】

   <野次馬之介>軽タンデム・ヘリコプター(2012.1.9)

 

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